簡単に論破できる電波オークション反対論 パート3

山田 肇

新装開店するそば屋の店主:近くにある江戸時代から続く老舗のそば屋は、タダで相続した土地の上でのうのうと商売している。店舗を借りなければならないわれわれとは大差があり不公平だ。老舗の土地は一度取り上げて、一から競争をし直させるべきだ。

電気自動車に新規参入したベンチャー企業のオーナー:電気自動車の開発競争を公平に進めるために、トヨタや日産がガソリン車の技術を流用するのを禁止すべきである。

こんな主張に理があるとはだれも思わないだろう。愚かな意見と批判されるだけだし、商売も成功するはずはない。ところが次のような意見がある。

電波オークションを導入するのであれば、放送局もタクシー会社も、NTTドコモやKDDIも、すべての企業が今使っている周波数帯をいったん返上して、その上でオークションをすべきだ。オークションの思想には賛成だが、一部の周波数だけを対象に実行することには弊害がある。


これは「電波オークション、やれるのかやれないのか」と題して日経ITProに掲載された記事の中にある、孫社長の主張である。こんなナンセンスな主張を、なぜ孫社長はするのだろう。

「簡単に論破できる電波オークション反対論」とその「パート2」で説明したように、電波オークションに対する反対者は民放テレビ局ではない。記事でわかるように、孫社長(移動通信事業者)こそが反対論者なのである。

光の道のためなら「4.6兆円のリスクを一社で負う覚悟がある」、と宣言した孫社長が、落札しても高々数千億円に過ぎない電波オークションに反対するとは、全く納得できない。しかも、その落札額は国庫収入となり、財政赤字を削減することで国民全体に還元されるというのに。まさか、日経ITProの記事にあるように、黙っていればソフトバンクに700/900MHz帯がタダで割り当てられると、思っているわけではないだろうが。

あまりのご都合主義は信頼を失う結果をもたらすだけだ。電波オークションに反対なら反対で構わないが、孫社長にはもっとまともな理論武装をしてほしいものだ。そもそもベンチャー企業はリスクを背負ってスタートする。既存のビジネスに比べれば不利な条件を跳ね返すように工夫する中から、社会経済を改革する新しい芽が生まれていく。孫社長は、そんなベンチャースピリッツを失ってしまったのだろうか。

山田肇 - 東洋大学経済学部