人口減少の問題解決は、人口減少が阻む - 村上たいき

アゴラ編集部

多くの識者が説明するように人口問題(少子高齢化)は、財政問題であり、世代格差問題です。人口が減少しても、社会の仕組みがそれにちゃんと対応したら大きな問題にはなりません。ただ、人口が減少傾向にあること自体が、社会の変化をしにくくしています。


強引な単純化と承知して書きますが、単純なインセンティブだけ考えると、引退した高齢者にとっては、できるだけ年金が多く欲しく、労働者からはできるだけ多く搾取したい。労働者もいずれ引退して高齢者になるので、労働者でも年をとればとるほどこの傾向が強くなります。日本は民主主義なので多数決により物事を決めるため、高齢者が労働者より人数が多ければそういう傾向が強くなります。さらに、藤沢数希さんが指摘するように高齢者は投票率が高い。その上、1票が重い地域には高齢者が多いため、高齢者の一票は重くなります(そう考えると政治で票格差の解消も難しい)。

高齢者を減らすことは不可能ですが、子供を増やすことは物理的には可能です。ただこれから出生数はかなり下がると思われます。下図の出生数の推計(国立社会保障人口問題研究所)によると、現在の出生数は団塊ジュニアの遅めの出産に支えられており下げ止まっていますが、数年後から日本の出生数はかなり下がっていくきます。出生率を上げるには、子供と、子供を持つ親に福祉を厚くしてインセンティブを持たせるのが一番単純な解決方法ですが、高齢者への福祉を大幅に削る必要があるので日本人の主流(高齢者)には受け入れられないでしょう。お金のために子供を生むわけではないでしょうが、経済的な理由から心理的なバイアスがかかる可能性はあると思います。せめて「子どもを産むと“懲罰”が待っている日本」なんて言われない程度になると良いと思います。いずれにしろ人口問題を解決するほどの出生率というのは難しそうです。

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(出所:国立社会保障人口問題研究所)

出生数が上げれないのであれば、移民を受け入れるしかありません。しかし、藤沢数希さんが言うように福祉国家と移民の大量受け入れは、フリーライダー移民が増えるので、ななかなか両立できません。フリーライダー移民が来ないようにするには、高齢者のみ福祉を充実させ、若年層のみ移民を受け入れる案があります。これなら日本人の主流(高齢者)にも受け入れられるかもしれません。

もちろん高齢者の数的有利を維持するためには移民に選挙権を与えないほうが、高齢者に支持が得られます。ただ「高齢者の年金のために稼いでくれ」「選挙権はあげないよ」と言っても、まともな人材が移民として来てくれるかどうかは疑問ですね。また移民に文化的摩擦はつきものなのですが、高齢者は特にこれを嫌います。こうやって見てみると移民はなかなか難しそうです。

以上のように、人口減少の問題は、人口減少ゆえにその解決が難しいです。ただ、高齢者はただ年金が多くほしいだけではなく、自分の生きている間は日本社会は維持したいはずです(株主と従業員のような関係ですね)。もしこれらの問題を解決する望みがあるとすると、それは高齢者の多数がこのままでは日本が維持できないことに気づくことです。そうすれば國枝繁樹先生の提案するような世代間公平基本法の成立も可能かもしれません。しかし、そのためには大きなインパクトのあるニュースが必要かと思います。そのニュースが日本の終わりでないことを祈りたいです。

最後にひとこと。


「自らの安楽と利便のために、未来を略奪して今日だけのために生きるという衝動を避けなければなりません」
-第34代米国大統領D. D. Eisenhower離任演説より-
(村上たいき)

コメント

  1. Shin より:

    エントリーの趣旨そのものはおっしゃるとおりかと思います。ただし、

    >出生率を上げるには、子供と、子供を持つ親に福祉を厚くしてインセンティブを持たせるのが一番単純な解決方法ですが、

    の部分は少々認識が違うのではないでしょうか。
    少子化の原因が出生率低下にあるのは間違いありませんが、その低下の主因は「非婚化と晩婚化」とされています。
    夫婦が持つ子供の数は基本的に60年代から変化しておらず「夫婦が子供を産まなくなった」わけではありません。
    「非婚化でそもそも家庭を作らなくなった」「晩婚化で同じだけ子供を産むにしても世代交代サイクルが長くなった」
    ことが出生率低下の原因です。

    現代日本社会における子育て環境の貧困は巷間よく話題になるところですが、それにも関わらず夫婦はこの半世紀と
    いうもの子供を作る数を減らしていないのです。従って既に子供を持っている層に手当を厚くしてインセンティブを
    積んでも、そこに少子化対策としての効果はあまり期待できないのではないでしょうか。
    個人的には子育て環境の充実に反対するものではありませんし、夫婦に戦後直後のような多産を期待するような
    多額の手当を実施するというなら別ですが、少子化対策というなら「子供及び子供を持つ(持ちそうな)親」への
    福祉的な対策は、原因への直接的な対策になっていませんので「一番単純な解決方法」でもなんでもありません。
    もし少子化を原因を解決する正面からの施策を行おうとするなら、「非婚化・晩婚化」対策であるべきです。
    もっともどちらも個人のライフスタイルに関わる問題なので政策的に取り組むのはなかなか難しい課題なのですが。
    (独身税、高校に託児所を設ける、シングルマザー奨励、といった社会の倫理観と衝突しそうな政策になりがちです)

  2. taiki_jp より:

    >Shin様
    筆者です。コメントありがとうございます。なかなか難しい問題ですね。仰るとおり、有配偶出生率は1960年あたりからあまり変わっておらず有配偶率が減少しているのですね。個人的な素人の感想ですが「結婚しないから子供を生まない」が理由であれば経済的なインセンティブの効果は薄いですが「子どもが欲しくない(作る余裕がない)から結婚しない」であればインセンティブの効果はあるかもしれません。未婚同居数、できちゃった結婚が増えているので、こういう感覚を持ちました。また、非婚化しても出生率が高い国(フランス)、晩婚化しても出生率が高い国(アメリカ)もあるので、それぞれお国の事情があるのでしょうね。おそらくこのあたりの議論は専門家たちにやりつくされているのでしょうね。素人の感想で失礼しました。貴重なご意見ありがとうございます。とても勉強になりました。

  3. Shin より:

    >村上さま
    ご丁寧なご回答ありがとうございます。

    >「子どもが欲しくない(作る余裕がない)から結婚しない」であればインセンティブの効果はあるかもしれません。

    これはおっしゃるとおりです。ただし先進国は(アメリカを除き)どこも少子化に悩まされていますが、それに
    対して子育て支援の方向で成功した例がありません。国情の違いはありますので日本でも上手くいかないとは
    限りませんが、出生率の反転に成功した例はシングルマザー奨励のフランス、スウェーデンくらいです。
    アメリカが少子化と無縁なのは「継続的な」移民のおかげでして、WASP層(最近は黒人層も)の人口減少と高齢化は
    進行中です。

    ちなみに人口構成問題は、その性格上、今すぐ出生率が向上したとしても改善に半世紀以上かかる代物です。
    少子化対策を重視するのは良いのですが、それはあくまで5~60年後以上先の未来のための対策で、これから
    半世紀の超高齢化社会の緩和には焼け石に水の範疇の効果しか持ちません(自分でコホート分析してみないと、
    なかなか実感しにくいのですが)。
     少子化対策を論じるのは良いのですが、それは現在既に生まれている世代が直面する超高齢化社会には
    ほぼ無関係な話なので、少子化対策と目の前の超高齢化社会への対策は事実上別個に考える必要があります。
    現実的には、超高齢化社会について避けがたいものとして受け入れるか、移民の継続的推進という特効薬を
    使うか、という二択になると思われます。
    高齢化進展について30年前には確定的な予測が出ていたにも関わらず、最近まで対策が無視されてきた経緯を
    鑑みますと、少子化対策だけではどんなに効果が出たとしても、少なくとも今世紀中は、高齢化率が1/4以下、
    という現在のような「恵まれた」時代は戻って来ない、という事実を多数の国民がきっちり把握してしまうと、
    むしろ現在以上に「逃げ切り狙い」の風潮が強くなるのかもしれません。