もうすぐバレンタインデーである。チョコレートの年間生産量の2割を、此の期間中に消費するとあって、お菓子屋さんは趣向を凝らし、客の呼び込みに余念が無い。
従来は、チョコレートを溶かし、ハート形の金型に入れて成形し、愛情たっぷりのチョコレートと称し、女性から意中の男性に渡した訳である。
所が、最近は男性の草食化に伴い、女性から仲の良い女性に渡すとか、或いは自分へのご褒美と称して、自分で買って食うと言う、荒業も一般的だそうである。
此処まで来ると、キリスト教の香りは飛んでしまい、只管チョコレートありきの日本の風物詩である。キリスト教に限らず、宗教に対する此の何とも言えぬ、緩さこそが、きっと日本の持ち味であり、巧く使えば他国は使い熟せぬソフトパワーと成るのであろう。
私の生まれ故郷は、神戸から比較的近いので、子供の頃両親にせがんで良く連れて行って貰った。お気に入りの一つは、元町からトアロードを少し北に上がった所にある、日本最古、1935年に建設されたイスラム寺院、モスクであった。
此のモスクには、今でも多くの観光客が訪れる神戸の観光スポットである。子供心に、日本文化とは異質な、何かエキゾチックなものに強く引き付けられたのであろう。
今でも、近隣のイスラム教徒がやって来て、此処で礼拝をしているとの事であるが、神戸の街にすっかり溶け込んでいる。通常、イスラム以外の土地でモスクを立てたり、礼拝したりすると、嫌がらせを受けたり、酷い場合は迫害されると聞く。
イスラムであれ、何であれ、受け入れ、許容し、そして楽しんでしまう日本人の資質、パワーは本当に凄いと思う。
扨て、本題である。BBC Newsの伝える所では、スーダン南部の分離、独立の是非を問う住民投票が実施され、98.83%の賛成で独立が承認されたと。そして、アメリカのオバマ大統領は分離、独立が実施される7月に、アメリカとして承認する方針である事を示した。
日本外交が機能しておれば、上記は外交ルートを通じ事前に日本に伝えられ、アメリカに呼応する形で、菅首相より同様メッセージが出された筈である。
日本が理解すべきは、今回分離独立のスーダン南部の住民の宗教がキリスト教と古代アニミズムである点、そして、此の10年に及ぶ内戦でスーダンの多数派であるイスラム教徒に拠り200万人が殺戮されたと言う、凄惨な事実である。
アフリカ大陸では、今回のスーダン南部の分離、独立以前に、イスラム住民が大部分のエリトリアが1991年にエチオピアから分離、独立している。ちなみに、エチオピアの宗教構成は、キリスト教が50%、イスラム教が30%である。
多宗教を楽しむ日本人には理解が難しいと思うが、1096年から1099年に行われた十字軍以降、実に1,000年近くに渡り、キリスト教国家とイスラム国家は戦争を繰り返して来たのでは無いだろうか。そして、1,000年を経て、再び21世紀と成り宗教対立の季節を迎えたのでは無いだろうか。
十字軍の意思を継承しているかどうかは、無論不明だが、国旗に十字軍の旗を使っている国は多い。スイス、スエーデン、イングランド、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、アイスランド他。此れは一体何を暗示しているのであろう。
同じ民族で、同じ宗教を信仰している場合は、基本巧くやって行けるだろう。同じ民族だが、片やイスラム、片やキリスト教と成ると微妙である。エジプトのコプト教徒は全人口の10%、800万人と言われているが、相当の差別、迫害に耐えているらしい。
キリスト教国家に取っては、余り好ましい状況では無い筈である。それ故、イスラム同胞団の如きイスラム原理主義者が政権を取る事態と成れば、飽く迄推測であるが、コプト教徒への迫害は必至で、西側社会は此の救済の為、対応が必要と成る筈である。この辺も欧米の対エジプト政策の重要な背景である筈だ。
違う民族に拠る支配、宗教も異なると成ると最悪のケースも想定される。最近の例では旧ユーゴスラビアに於ける、「民族浄化」と言う名の他民族への無差別、虐殺行為である。
此処まで悪化しないにしても、中央アジアのイスラム教徒、そして、中国、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の状況は余り芳しく無い様である。
当然、今後、分離、独立を求める民族運動は、今回の南スーダンの成功に刺激され活発に成る事が予想される。
仮に新疆ウイグル自治区で独立運動が起こり、中国が天安門事件の時と同様、武力制圧での問題解決を図れば、アメリカを筆頭に西側諸国の厳しい批判を受ける事に成る。更に、アルカイダ等イスラム過激派のテロ攻撃を受ける事は確実では無いだろうか。
日本は、持って生まれた、宗教に対する飛び抜けた寛容さを活用し、キリスト教徒が支配する西側諸国、イスラムの国々、そして中国とバランス良く付き合って行く必要がある。
コメント
「キリスト教が支配する西側諸国」とおっしゃるが、少なくとも西ヨーロッパに於けるキリスト教は日本の「葬式仏教」と五十歩百歩で社会に於ける影響力は極めて小さい。カトリック教会の神父は西ヨーロッパでは自国で養成できず近年は殆どがポーランド人である。フランスの公立学校でのイスラム教徒のスカーフやブルカの着用禁止が議論されるのはキリスト教国家だからでなく、フランスがSecular(非宗教国家)だからで公立学校での十字架の着用さえ禁止している。日本が宗教に寛容とおっしゃるが、西洋諸国のように人口の5-6%前後のイスラム教徒を受け入れる寛容さを持っているとは思えない。
西側キリスト教諸国の中で問題なのはアメリカである。米国人の約30%は新旧約聖書の記述をそのまま100%信じる「キリスト教原理主義者」である。この人達は進化論も信じず南部の州ではダーウィンをサイエンスの教科書に載せる事さえ反対している。Pew Research Centerの調査によれば「イスラエル建国」によってイエスキリストの再来が一歩近くなった」と思う米国人は35%に上る。米国政府は西岸地区のイスラエル占領地の入植に反対しているが、現在、西岸のイスラエル入植者を経済的に援助しているのは米国の民間人で、その多くはユダヤ系ではない「キリスト教原理主義者」である普通の米国人なのだ。この人達が宗旨変えしない限り中東に平和はこないだろう。