簡単に論破できる電波オークション反対論 パート7

山田 肇

簡単に論破できる電波オークション反対論』と題する記事を連載してきた。わかりやすく書いたつもりだが、腑に落ちていない方もいるようだ。「既存事業者は美人投票で費用をかけずに電波を得たのに、新規参入事業者はオークションに費用がかかり不公平」という意見も依然として聞かれる。この主張が合理的ではないことを、パート3に引き続き説明しよう。

電波事業を始めるためには何が必要だろうか。まずは市場性を調査する必要がある。市場はどの程度の通信速度を求めているのだろうか、いくら支払う用意があるのだろうか、といったことを知らなければならない。既存事業者と異なり、新規参入事業者には市場性が簡単にわかる。なぜなら、既存事業者がすでにその市場で経営を行っているからだ。


今からWiMAXビジネスを始めようとしたら、UQコミュニケーションズを調べればよい。3880円あるいは4480円という月料金で、2011年1月末の加入者数は60万人だ。ちょうど一年前には63600契約だったので、およそ10倍に増えた勘定になる。これらの情報を基に市場性を把握できることは、新規参入事業者にとって有利である。

市場性を確認した新規参入事業者は免許の取得に動き出す。今までは美人投票(比較審査方式)で無料だったが、電波オークションが導入されたら、新規参入事業者には費用が発生する。免許取得に費用がかかることは、新規参入事業者にとって確かに不利な条件である。

免許が取得できたら、ネットワーク設備(インフラ)を建設することになる。情報通信分野の特性で、インフラ建設費用は経時的に低減していく傾向にあると「推測される」。「」を付けて書いたのは、インフラの調達は通信事業者と機器メーカの間でネゴシエーションベースで行われるため、実態が見つけにくいからだ。

しかし情報がないわけではない。UMTS Worldという情報誌には「欧州の事業者は1加入者当たり650ユーロをかけて3Gを建設してきたが、数年内に400ユーロ程度まで下落する」との記述があった。ただし、これが何年頃の話なのかは分からない。

中国の機器メーカは低価格化を強くアピールしている。ZTEが自社サイトに2010年11月に掲載したインタビュー記事は「China Unicomは、ZTEを採用したことで総建設費用を40%、総消費電力を85%節減した」と誇っている。HUAWEIのサイトにも同様の記述を見つけることができる。

2006年6月付のEconomist記事は「この5年間で3Gのインフラ価格は70%も低下した」とのコンサルタントの見解を紹介している。

新規参入事業者のほうが、インフラ建設で有利なことはこれらの傍証から確実である。したがって、新規参入事業者はオークション費用で不利、市場性調査とインフラ建設で有利になる。

孫社長は日経ITProのインタビューで「電波オークションを導入するのであれば、放送局もタクシー会社も、NTTドコモやKDDIも、すべての企業が今使っている周波数帯をいったん返上して、その上でオークションをすべきだ」と発言している。確かにその方がオークション費用の負担という点では公平になる。

それでは市場性調査とインフラ建設について、孫社長はどうするつもりなのだろうか。既存事業者が苦労して市場を開拓し、インフラを建設してきたのに感謝して、新規参入事業者から既存事業者に何がしかを支払うべきなのだろうか。

そんなことはだれも求めない。何事にも有利と不利は付き物で、有利だけを取り上げても不利だけを取り上げても意味はない。オークションに費用がかかることだけを殊更取り上げて不利と主張するのが間違っているのだ。

山田肇 - 東洋大学経済学部

コメント

  1. izumihigashi より:

    市場性調査について殊更価値を見出そうとされているようですが、最初から確実に市場性があると確信している相手にとってはほぼ無価値です。先行者が開拓したものに「ほほう、市場性はあるわけだ・・ならば参加してみるか」ってな、のんきな考えではなく、自ら使命感を持って情報革命を目指しているのです。市場調査の価値など認められる訳がないではないですか。