20兆円ともいわれる東日本大震災の復興費用の財源は未だに決まっていない。福島第一原発の事故による避難住民や風評被害の補償も最終的には多くの部分が国民負担となり、この費用も含めると必要な財源はさらに膨らむであろう。そしてこれらの復興費用の財源をめぐって、赤字国債のさらなる発行か、日銀による国債直接引き受けか、増税か、そして増税ならどの税金によるのか、様々な識者によって議論されている。しかし筆者は財源に関しては消費税率の引き上げの一択しかないと考えている。
日本国政府はこれまでさんざん財政赤字を積み上げてきた。これはデフォルトかインフレにより借金を踏み倒なさないかぎり、将来の税金である。今のところ、市場は将来の税金になると考えているので、相変わらず低金利で政府は資金調達できるのである。逆説的だが、政府が徴税権を使って返済しないと市場が判断すれば、すぐに制御できないインフレになるであろう。つまり赤字国債はよくいわれているように、子や孫の世代に負担を先送りしているに過ぎないのだ。そしてこの震災や原発事故の負担も、また同じように子や孫にツケ回していいのだろうか。筆者は、まったくそうは思わない。復興のための費用は、我々で負担しなければいけないのだ。つまり税金である。それではどのような税金がいいのかと考えると、それは消費税の一択しかないのである。
出所:財務省のウェブ・サイトより筆者作成
過去20年間、所得税収は下がり続けた。30兆円近くあった所得税収は今では年間12兆円程度まで落ち込んだ。法人税収も下がり続けた。小泉政権の時に輸出産業が息を吹き返し、多少税収が増えた時期もあったが、やはり過去20年間下がり続けている。所得税の最高税率、法人税率、ともに世界最高水準の高さであるにも関わらず、だ。その点、消費税による税収の安定感には眼を見張るものがある。1997年に5%に引き上げられてから、ほぼ一貫して10兆円程度の安定した税収をもたらしてきた。消費税は景気に左右されないのである。
所得税の最高税率やすでに高率な法人税を引き上げても逆効果なのだが、それは以下の理由による。1.儲けることを罰することにより労働意欲が低下する。2.租税回避の様々な方法が実行される。3.高額所得者や高収益企業の海外への流出を加速させる。政府はこのような明らかな現象を理解するべきだ。今、税収を引き上げようと思ったら、それは消費税しかありえないのだ。また、現在は電力不足による供給制約があり、消費税率の引き上げによる需要の抑制は―仮に一部の消費税反対論者が主張するように本当に需要が抑制されるとしたらだが―経済政策的にも教科書通りに正しいことなのである。
むろん、消費税率を引き上げるといっても、現在のような売上の少ない零細企業に対しての益税を廃止したり、欧州のようなインボイス方式にしたり、国民納税者番号を導入したりと、いろいろとやるべきことはある。しかし復興財源は消費税しかないという結論は変わらない。筆者は次の世代へ負担を先送りするような恥ずかしいことは終わりにするべきだと常々考えている。一か八かのリフレ政策などもってのほかだ。
参考資料
いよいよ消費税が切り上がる、アゴラ
所得税はフラット10%にして大幅な税収アップ、アゴラ
サラリーマンなのに消費税アップに反対するのは脳ミソが溶けているとしかいいようがないという件に関して、金融日記
コメント
財政再建のための消費税増税なら大賛成なのですが、復興税という形で取るのはどうかと思います。公務員人件費削減や郵政完全民営化で十分対応できるはずですから。
(竹中平蔵) 復興税は必要ない。増税詐欺にだまされるな。
http://www.youtube.com/watch?v=20xYa2PM4yQ
広く国民に負担をお願いするという意味で消費税のほうが向いているでしょうね。多分、復興を口実にするなら時間的な制限を設けたほうがよいと思います。
一方私は、並行して納税者番号の導入が不可欠だと思います。今回の震災でもたとえば被災者にマイナスの課税を行う、年金の支払いを一定期間免除するなど政府が支援できることがたくさんあるはずなのですが、それがシステム的に低コストでできない理由は大きくはこれだと思うのです。
また、ご指摘の所得税、法人税の減少についても、本来ならば払うべき人が払っていないなどの問題(それが存在するかどうかは別にして、疑われるような状況)が存在することは
税金というシステムそのものの安定、ひいては国のサービスの質という意味でも解決すべきと思います。
所得税や法人税の増税は臨界や急激な相変化というものは起きにくいですが、消費税増税は中小零細企業の倒産という相変化が起きやすいのです。高額所得者は所得税が多少高くなっても、少し贅沢を削る(メルセデスを国産に乗りかえる)など、対応策が取れる幅が大きいし、銀行や東電などの大企業は国が税金を使って倒産しないように助けてくれさえします。一方、星の数ほどある中小零細企業は、消費税の1%、2%でぎりぎり存亡を掛けている場合が多く、ほんの少しの増税で、一気に倒産という相変化が起こるのです。対応策を取れる余地などありません。中小零細で倒産した企業の経営者や従業員とその家族のかなりの割合が生活保護を申請することになるでしょう。消費税が安定しているのは、相変化を起こす臨界点の下(債務超過にならないぎりぎり)で安定しているに過ぎません。
平成20年で9兆円ある固定資産税(地方税)の国税追加ではだめでしょうか。
階層固定化を防ぐなど、有益な税だと思われます。
>所得税の最高税率を引き上げても逆効果
(あえて法人税率は変えないことにします)
>労働意欲が低下、海外への流出を加速
私もそう思っていたのですが、具体的にどうなるか妄想してみました。
法人企業経営者(個人→法人 へ所得移転可能?)
医師、弁護士(お金目当てでやっているわけではないはず、海外に行けば稼げない)
個人事業主(そもそも稼げない)
規模の大きな会社の労働者(ex東電社員 定年間近の公務員 能力と所得が比例していない)(海外へ流出できない人がほとんど)
「所得税上がるから今日は仕事休み」とか「日本は所得税高いから外国行こう」なんてできる人はほんの一握り(その一握りをつなぎとめるにはもっと金を払うしかない)
所得税が上がる→意欲低下、海外流出 は
消費税が上がる→需要の抑制 と同じ程度の信憑性では。
高収益企業は、税金もさることながら、為替レートによる影響のほうが大きいのでは。
文章読んでて思いましたが、消費税一択の根拠がまったくありませんね。所得税上げるのが無理と言いますが、その程度の根拠ならば消費税上げるのも無理ですね。同じ根拠で「景気悪化⇒消費税収減」のスパイラルが成立してしまいます。
単純に年収1500万円以上、金融資産1億円以上の人の希望する税制を代弁したにと考えれば本稿は腑に落ちます。無意識か意識的かは知りませんが、つまり単なるポジショントークですね。私も個人的にはこの文章のようになればうれしいです。
ただ、この20年でGDPが500兆円であまり変わっていないのに所得税収が半分以下に下がっているのには考えさせられました。
・その結果、もっと景気が悪くならないでしょうか。橋本政権時代の消費税増税の結果はどうでしたっけ。
・景気腰折れは免れたとしても、消費税増税で自殺する中傷企業経営者、家を失い一家離散し餓死する極貧層はどれだけになるでしょう。
その通りやって、結果がどうなるか…
復興ではなく復旧でいいのではないでしょうか?復旧すれば、あとは民間が勝手に復興します。どうして税金で復興しなくてはならないのでしょうか?
より安定な財源という観点から言えば、まさに明治維新の発想ですよね。すごく大切なことですよね。また、こうしてグラフ化すると消費税の増税が景気の悪化の原因だという意見が嘘であるのがよくわかります。
私の周辺においての話ですが、中小企業の経営者とかのそこそこのお金持ちの方々は、ほんとに、節税することしか考えてないですね。給与でとると損すると思ってる人が多いです。で、会社の経費で贅沢してるかというとそうでもないようです。財源を消費税に移すことで、こういう層の消費はむしろ伸びそうですね。ですのでその際にはいろいろと波及効果があるように思いますが。
しかし一方で外せないのは、社会保障制度の改革。とくに老後の安心にこれだけ関心がある国ですから、消費税が高くなっても、老後の面倒は国が見ますといえば、それだけで短期的には景気がよくなりそうです。むやみに貯蓄するインセンティブが減るようなしっかりした最低保証の施策に踏み込むべきですよね。あるいは失業者への給付を手厚くするとか、そういうことをしっかりやれば誰も増税には反対しないと思いますけども。
震災復興の財源も大切ですけど、税制の改革は既得権を破壊するということに違いないので、構造改革そのものではないかと思います。まずは中長期的な収支を均衡させるという一点で行うべきではないでしょうか?その意味では上げ潮派的な議論には乗るべきではないと感じますので消費税が一番有効だという点には全く同意いたします。