マスコミ監視は野党の仕事ではない

大西 宏

過去の冷戦構造の時代はもうとっくに終わっており、政党間の競争にも変化が求められてきています。思想の違いも薄れ、政党間の競争は、体制をめぐるバトルから、どれぐらい国民の共感を得るビジョンや政策を打ち出せるかのコンテストに変わったのです。つまり、それだけ国民にとって価値のある主張をする存在かを競う時代なのです。

国民はそのことを感じているのですが、肝心の野党第一党の執行部にその認識が欠け、あいかわらず政争というバトルを繰り返しているように映ります。与党批判と政権与党の能力不足を指摘するだけで、魅力のあるプランの提示がないのです。


独自性のある主張を掲げることがいかに国民の支持を得るかは、これまでも示されてきました。長期的に凋落していた自民党政権を救ったのも小泉元首相の「自民党をぶっこわす」という一言でした。それが時代の閉塞感を吹き飛ばしてくれるという期待をつくりだしました。民主党政権が誕生したのも、実際に実行可能かは別にして掲げたマニフェストが支持されたからでした。

そんななかで、自民党が、報道機関の論調を調べ、内容に問題があれば対抗措置を講じるために「メディアチェック」の担当議員を新設したという記事を見て驚きました。

読売新聞の記事によれば、「菅内閣の支持率が著しく低迷しているのにもかかわらず、自民党の支持率が思うように伸びない原因の一つに報道機関の自民批判の影響があると見ているため」だそうですが、もし本当にそう考えているなら、自民党は相当認識違いがあるように感じます。

マスコミでもっとも問われるべきは、自民党に不利な報道をしていることではありません。それなら菅内閣の支持率も落ちないはずです。マスコミは連日政府批判を行っており、菅内閣支持率は10%台となり、もはやレイムダック状態になっています。しかし、それでも自民党に支持率が上がらないというのは、その菅内閣への不満を吸収出来ていないからにすぎません。

内閣支持率が下がっているのは敵失であって、自民党が国民の支持や共感を得る仕事をしたからではありません。

菅直人首相の「脱原発」発言の批判も、では自民党として、過去の過ちの反省に立って、どのような原子力政策、あるいはエネルギー政策の転換が望ましいかの新しい視点が生まれたわけでもありません。今やっと検討し始めているということだそうですが、順序が違います。これほど自らのポジションを明確にできるチャンスはないと思うのですが、それも生かせていません。

とくにエネルギー政策に関しては議論が混乱してきています。なんら事実に基づかない議論、思い込みによる議論が跋扈しています。まずは冷静な議論に欠かせない情報開示や情報整理を提案することからでも始めてはいかがでしょうか。

もちろん自民党のなかにも、政策を真面目に考えている人たちもいらっしゃって、ブログなどで書いていらっしゃいますが、それがもっとクローズアップされてこない党内の状況の改善でも考えたほうが建設的です。

マスコミの報道への批判は、ネットの社会が行っており、また権力の座に戻る可能性のある自民党が監視するというのは健全さを感じません。それならむしろマスコミ批判を行っている人たちとシンポジウムでも開けばどうでしょうか。