総合CPIとコアコアCPI

池尾 和人

財・サービスの価格については、(1)伸縮的(flexible)なグループと(2)粘着的(sticky)なグループに大別できる。資産価格(株価や為替レートなど)は、一般的にきわめて伸縮的で、急上昇することもあれば、逆に急落することも珍しくない。財・サービスの中にも、そうした資産と同様に、その価格が短期間に乱高下することが往々にしてあり得るものが存在する。その代表的なものは、第一次産品である。


穀物や石油などの第一次産品の価格は、短期間に大きく変動する可能性がある。しかも現代では、それらを原資産とするデリバティブ商品(小麦の先物や原油の先物など)の取引が活発に行われており、それらの価格は資産価格と同様の性質をもつものなってきている。第一次産品が(1)の伸縮的価格のグループに属するのに対して、工業製品等は、それらの価格が上昇するにせよ下落するにせよ、それほど急激に変化するものではなく、(2)の粘着的価格のグループに属する。

われわれ消費者が消費する対象となる財・サービスは、これら(1)と(2)の両方のグループに渡っている。諸々の財・サービスの価格を平均的な消費者が消費する財・サービスの構成比で加重平均して(基準年の値を100として)指数化したものが、消費者物価指数である。以下、これを総合CPIと呼ぶことにする。因みに、ここでの総合は、英語ではヘッドライン(headline)という。

これに対して、(1)の伸縮的価格グループに属する食料品とエネルギー価格を除いて計算した消費者物価指数が「米国型のコアCPI」である。米国型といっているのは、日本では、すべての食料品価格ではなく、生鮮食料品の価格だけを除いて(エネルギー価格は含んで)計算した消費者物価指数を「コアCPI」といっているからである。ここでは、後者の「日本型のコアCPI」を単にコアCPIと呼び、前者の「米国型のコアCPI」をコアコアCPIと呼ぶことにする。

さて、金融政策を通じて中央銀行が安定化を目指すべき物価は、第一義的には総合CPIである。このことは、日本でも米国でも同様である。例えば、サンフランシスコ連銀のEconomic Letterの最近号の中にも「Congress has mandated that the Federal Reserve maintain stability of all prices, including those of food and energy.(議会は、食料品とエネルギーの価格を含むすべての価格の安定を保つように連邦準備制度に命じてきた。)」という記述がみられる。

われわれは消費者は、もちろん食料品もエネルギーも消費しているのであるから、生活に直結しているのは総合CPIである。コアコアCPIは安定しているといわれても、ガソリン価格が急騰していれば、消費者の生活は圧迫される。その意味では、総合CPIの安定をもって物価の安定とみなすことがむしろ自然である。しかしながら、実際の金融政策の運営にあたっては、日本銀行はコアCPIを、そして米連邦準備理事会はコアコアCPIを重視しているといわれる。この点は、どう理解すればよいのだろう?

金融政策が効果を及ぼすまでには、かなりの時間を要する。換言すると、中央銀行は、足下の物価の動きに即座に影響を及ぼすことはできない。この意味で、ターゲットは数四半期先の総合CPIの水準だということになる。では、数四半期先の総合CPIの水準を予想する際により参考になるのは、足下の総合CPIの動きであろうか、それとも足下のコア(コア)CPIの動きであろうか。このように考えると、乱高下しやすい価格の動きを含んでいる総合CPIよりも、それらを除いたコア(コア)CPIの方が実は信頼をおける(トレンド的な動きを知るにはより有益だ)ということである。

要するに、生活に直結しているのは総合CPIの動きであるが、先行きの物価の趨勢的な動きを判断するにはコア(コア)CPIの動きがより参考になるということである。なお、この18ヶ月間のわが国の消費者物価指数の上昇率は、以下のようになっている。昨年の秋くらいからやや潮目が変わってきている感じがあり、デフレに歯止めがかかってきているといえないこともないが、まだまだ弱々しい動きにとどまっている。

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池尾 和人@kazikeo