著者:水野 和夫
販売元:日本経済新聞出版社
(2011-09-06)
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★★★☆☆
日本経済の問題を短期的な景気対策に矮小化し、「日銀が景気よく金をばらまけばデフレは解決する」という類の話は、学問的には存在しないが、政治家にはまだ根強いようだ。本書はその対極で、16世紀以来の「長い近代」の中で世界経済を展望する超長期の話である。
ちょっと前まで、日本の「失われた20年」は、おそまつな銀行行政と金融政策の結果による特殊な問題だと思われていたが、最近は日本が「デフレ先進国」として注目されている。著者はこれを歴史的に位置づけ、16世紀と同様の「利子率革命」が起こっているとする。
これは経済規模が拡大して利潤機会が減ってくると、金利(=資本収益率)が下がるという「収穫逓減」だ。リカードもマルクスもケインズも、資本主義は長期的には停滞して利潤率が低下すると考えていたが、20世紀には彼らの予想を裏切って成長が続いた。これは地理的な限界と資本蓄積の限界を生産性上昇(イノベーション)で補ってきたからだ。
しかし21世紀のITバブル崩壊やリーマン・ショックなどの事件は、ITや金融技術によって資本主義のフロンティアを広げるシステムに限界が来て、成長のエンジンが新興国に移ったことを示している。つねにデジタル情報で差異を作り続けないと倒れるポスト近代の資本主義はバブル的な性格をもっており、こうした危機は繰り返されるだろう。
日本は西欧が500年以上かかって構築した資本主義を100年余りで実現し、それを追い抜いた。このため一足先に技術が成熟し、投資機会が枯渇して、停滞のトップランナーになってしまったのだ。したがって先進国の価格体系が新興国と収斂する「価格革命」は長期にわたって続き、先進国は停滞を脱することができないだろう。
長期停滞の歴史的考察はスケールが大きくておもしろいが、議論の展開は未整理で荒っぽい。標準的な経済学でわかる常識的な話に、やたらに「**革命」とか「**危機」といった名前がつけられ、最後に福島原発事故で「技術進歩教」の終わりを宣告するのは、いささか通俗的だ。大量の文献が断片的に引用され、本文350ページに注が200ページ近くついているのもいかがなものか。