ドメイン投票法:なぜ20歳未満は選挙権をもてないのか

小黒 一正

ピーター・ドラッカーの「今後20年から30年において、先進国では人口構造をめぐる諸々の問題が政治の中心となる」(『明日を支配するもの』ダイヤモンド社)という予測通り、いまの日本では「政治の高齢化(Political Aging)」が急速に進んでいる。

その結果、孫は祖父母よりも1億円も損をするという世代間格差を引き起こしている。この格差是正には、若い世代の「政治力」を高める必要がある。

その際、東京大学の井堀利宏教授らが提唱する「世代別選挙区」の導入も解決策の一つであるが、アメリカの人口学者であるピーター・ドメイン教授が提唱している「ドメイン投票法(Demeny Voting)」という仕組みも検討に値する。


ドメイン投票法とは、子どもにも選挙権を付与し、親が子どもの代理として投票する仕組みであり、全人口で一定の割合を占める20歳未満に選挙権がない問題の打開策として提唱されたものである。

例えば、親子3人の家族で、子ども1人に1票を与えるケースでは、母親が0.5票、父親が0.5票を代理で投票する。テレビに時々登場する親子16人家族とかでは、子ども14人で14票だから、母親と父親は自らの票も含め、それぞれ8票をもつ。

このため、多くの票がほしい両親は出生数を増加させる誘因をもち、少子化対策としても寄与する可能性もある。

ドメイン投票法を導入している国はまだないが、近年、ハンガリーなどのいくつかの国々では実際に導入に向けた検討がされたことがあり、まだ生まれていない将来世代に選挙権を付与することは不可能であっても、すでに生まれている子どもに選挙権を付与することは可能なはずである。

世の中の仕組みをしらない子どもに選挙権を付与するなど非現実的であるという指摘もあろう。
だが、ドメイン投票法は親が代理で投票をする仕組みであり、もし子どもに選挙権を付与してはならないという理屈があるとすれば、投票価値の平等を保障する憲法との関係をどう解釈すればよいか、深く検討する必要がある。

では、ドメイン投票法の導入効果はどうか。

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計を利用して、50歳以上比率(50歳以上の有権者が全有権者に占める割合)の推移を計算してみると、以下の図表のようになる。

例えば、導入前の2011年における値は過半数以上の54%を占めているが、導入後は過半数以下の44%にまで低下する。

同様に、2050年までの間に渡って、ドメイン投票法は50歳以上比率を8%~10%も引下げる効果をもつことが分かる。

このようにドメイン投票法は、政治の高齢化によって強まる引退世代の政治力を是正し、若い世代の政治力を高めるための一つの仕組みとして機能するはずである。

「なぜ20歳未満は選挙権を持てないのか」という問いとあわせ、少子高齢化が急速に進展する日本でこそ、その実現に向けて議論が深まることが期待される。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)