「モバキャス」のような調整型メディアビジネスは果たして大丈夫か?

石川 貴善

シャープの読書端末「ガラパゴス」が、9月末で販売終了となりました。本来は電子書籍だけでなく、映画やドラマなどの映像コンテンツの販売・配信が言われていましたが、端末が売れないとコンテンツが集まらない・コンテンツが少ないと端末が売れない、という鶏と卵の関係はウォークマンやVHDの時代からある根深い問題です。

同様に来年春から展開される、アナログ停波したVHF帯を使った、スマートフォン向けマルチメディア放送「モバキャス」も以下にあるように先行きが危ぶまれる状況です。


失敗しそうなモバキャスと周波数オークション
https://agora-web.jp/archives/1383775.html

応募わずか1社…。新放送サービス、失速の真実 なぜ、「モバキャス」は敬遠されたのか
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110914/222642/?mlh1&rt=nocnt

簡単にモバキャスの要旨を紹介しますと、7月のアナログ停波に伴う空いた放送帯域(VHF:207.5~222MHz)を使って、独自のスマートフォンを通じてスポーツ・動画・電子雑誌などを配信する放送サービスです。地上波テレビと異なり、ハードの放送事業者と制作編集を行うソフト事業者を分けて、免許交付を行う方式となりましたが、ハードはドコモ陣営が、またソフト事業者は10から15の参入枠を設けて募集しましたが、参入はドコモとフジテレビが共同出資した2009年から準備が始めたmmbi1社しかない状況となり、先行きが危ぶまれている状況です。

総務省の選定プロセスや長く伸びるアンテナなど個別の内容は控えますが、80年代から90年代にかけてメディア産業で、技術革新や新しいデバイスが出た段階で出ては消えてきた要因として、次のようなパターンは共通しています。

1.色々な会社の共同出資・・・商社・通信会社・メディア会社などが共同出資してできた会社は、意思決定やそれぞれの会社の思惑などが交錯しやすくなりがちです。
特に商社はリターンを求める色合いが強くなりますし、通信会社やメディアは電波を押さえることに意識が向かいがちで、ライバルも参入せずにトータルで利益が出れば良しという見方です。

2.独自の国内技術と閉じた規格・・・所管官庁から許認可を得やすくするため、またNTTは特にその色合いが強いですが、産業育成の政策的見地から、国内の独自技術が優先されますが、日の丸技術に固執するとユーザーから見た魅力が低下します。

3.国内だけしか流通しないスマートフォン・・・スマートフォンも日本国内での使いやすさと独自サービスから専用の端末となりますが、いまやコストと機能から生産ロットの多い海外のスマートフォンのほうが評判が良い状況です。また中国や台湾の部品メーカーも、日本の家電メーカーからの発注に関して「ロットが少ない・注文が多い・手直しが多い」と、ありがたくない状況となっています。

4.平均的視聴者を相手にする・・・番組内容も今のところ「視聴者全員参加のクイズ番組」「番組とTwitterが同じ画面」がセールスポイントとなっていますが、ある程度ソーシャルメディアに慣れた視聴者より、テレビと同じく最大公約数を相手にする方法です。一見しますと市場のパイが大きくなりますが、スマートフォンでゲームやSNSなど競合するコンテンツが身近にある限りは、なかなか難しいでしょう。
またドコモが関与する以上、かつてのキャプテンシステムやパケット通信のDopaのように、文部科学省推奨のコンテンツとなりやすく、その際にはカギとなるキラーコンテンツ次第の展開となりそうですが、それも不透明です。

20110806_新・週刊フジテレビ批評 2/4 ~日本も電波をオークションしよう


https://www.youtube.com/watch?v=IxBLQTZGHao&feature=related

モバキャスの内容を紹介。

もともとメディア経営は難しいことから、古くからケーブルテレビ・CS放送・BSデジタルなど、厳しい状況も珍しくありません。そのためこうしたビジネスは放送局内部や担当者にとっても難しい存在となり「賛否が社内派閥の踏み絵になる」・「経営者が他意なく期待してエース級の人材を送り込んでも、現場で憶測を持った受け止め方をされる」ことから、担当者にとって貧乏くじをひくジレンマとなっています。そのため本人に資質ややる気があっても、今までのリスクや社内の目などを考えると、早く異動したい・親会社に戻りたいと思うのも無理はないでしょう。

最大の問題として組織内力学で逆淘汰が進んでしまい、「リスクを取らない」・「何もしない」・「メディア内部で業務で権力の位置に近い(社内調整や波取り記者など)」といった部署のほうがメリットがあることで、ビジネスモデルがより旧態依然としてしまい、進取的な考えを持つ場合にはリスクテイクするメリットがなくなってしまうことにあります。
また問題意識を持った人材で悲憤慷慨していても、社内外からバッシングを受けることによってモチベーションを下げる結果となっています。

流れとしては

といった悪循環を繰り返してしまうことにあります。
海外でもHuluなどは、その知名度・内容に比べて業績にあまり寄与していません。現実的に今の日本社会の中で苦戦していますが、こうしたビジネスを”華々しく成功する”には解を見出しにくい状況です。
特にメディアを産業として見ますと、通常のプロジェクトを進めていく以外に表現者としての眼も求められますことから、長丁場での展開が求められます。出来うることは日本企業に多い「定期異動」や「ワンアウトチェンジ」ではなく子会社や関連会社に骨をうずめ、長い観点で視聴者に新しい体験を伝えていくべく、事業を育む必要があるでしょう。