日本の科学技術が劣る理由

山田 肇

松岡祐紀さんのグローバル人材に関する記事は興味深かった。そこで、科学技術人材のグローバル化について記事を書くことにしよう。

文部科学省科学技術政策研究所が「科学における知識生産プロセス:日米の科学者に対する大規模調査からの主要な発見事実」と題する調査報告書を発表した(報道発表はこちら本文はこちら。)

2001年から06年にかけて発表された論文を対象にアンケート調査を行い、わが国の科学者からは2100件の、米国の科学者からは2300件の回答を得たという。これを読むと日本の科学技術が劣る理由が分かる。

わが国から発表された論文では筆頭著者の7割(若手研究者が筆頭の場合)から9割(シニア研究者が筆頭の場合)が日本生まれであるのに対して、米国の場合には自国生まれは4割から5割と低い。研究を着想するための知識源としては科学論文が最も重要だが、米国では国内で発表された論文という回答がおよそ8割であるのに対して、わが国では国内論文を重視する割合は1割程度に過ぎない。一方わが国では、国内の知識源として産学連携の相手や所属機関の同僚など、人に関連する項目が重要とされた。


米国が外国生まれの科学者を受け入れ活発に競争させているのに対して、わが国は日本人科学者に偏っている。とりわけ、わが国には外国生まれのシニア研究者はいない。わが国の研究者は国内人脈をそれなりに大切に扱っているが、国内で発表される論文は相手にしていない。よい成果が出れば米国の学会に論文を提出するというのが実態である。

国内に組織された学会は日本人科学者の交流サロンに過ぎず、最新の学術成果を競う場ではない。競う場でなければ外国生まれの若手科学者を引き付けられるはずはなく、その結果、国内学会はますます国内化して活性度は下がっていく。一方、米国にはよい論文が集まるので採択を目指す競争は激化し、その結果、米国の学会に占める日本からの論文の比率は年々下がっていく(備考)。

研究資金の調達先も興味深い。わが国の高等教育機関ではプロジェクトの7割が内部資金と外部資金を複合的に利用している。これに対して米国の高等教育機関では外部資金だけを利用した割合が5割を越える。外部の組織にとって魅力的でなければ資金が集まるはずはないので、米国のほうが外部にアピールする研究を行っていることが分かる。「米国では外部資金を獲得できない教授は失格」と語られてきたが、それが裏打ちされた。

同研究所が別に実施した「我が国の科学技術人材の流動性調査」によると、国内機関間の異動が全体の88%を占め、国内から海外への異動は5%、海外から国内への異動は6%だという。松岡祐紀さん流の表現を用いれば、日本の科学者は上(米国)を目指す気概が足りないのだ。

これらの調査によって、わが国の科学技術はとりわけ人材面でガラパゴス状態に陥っているという様子が浮き彫りにされた。

山田肇 - 東洋大学経済学部

備考:科学技術政策研究所が発表した「IEEEのカンファレンスと刊行物に関する総合的分析 ―成長・激変する世界の電気電子・情報通信研究と日本―」に詳しい。