市場はマイナス成長を想定-2012年の成長率見込み-

高橋 正人

2012年の世界経済は、欧州債務危機などのリスク要因があり、各国の経済成長率の見通しについて不透明感が拭えない。そこで、市場の声に素直に耳を傾け、マーケットが何を想定しているのか探ってみた。具体的には、大まかではあるが、各国の株式に織り込まれている期待成長率を算出した。

1.株価に込められた期待成長率


「株式益回り=リスクフリーレート+株式リスクプレミアム-期待成長率」を基に考える。
上記の式のテクニカルな算出手順(注1)は欄外に記述するが、直観的には、株式に対する投資家の要求利回りは、「期待収益率(無リスク金利+株式のリスクプレミアム)」から「利益成長率」分だけ引いた水準で満たされると考えてもらっても良い。

上記の式を期待成長率(注2)の式に組み直すと下記のとおりである。
「期待成長率=リスクフリーレート+株式リスクプレミアム-株式益回り」
右辺の各項には下記のデータを挿入することした。
・リスクフリーレート:各国の10年物国債の利回り(1/4時点)
・株式リスクプレミアム:5.5%(諸説ある(3~7%程度のレンジ)が、実務上は5~6%程度を使うことが多いので5.5%と置いた)
・株式益回り:各国株価指数の予想PER(株価/予想一株当たり利益)の逆数(Capital Partnersの発表値を参照)

結果は以下の表の通りである。

rr120106期待成長率

日本はほぼ横ばいの成長率、欧米はマイナスの成長率といった見通しをマーケットは織り込んでいるようだ。特に欧州債務危機問題で揺れているドイツ、英国の成長率は3%前後の大幅なマイナスとなっている。つまり、今の株価水準では、欧米の経済成長率がマイナスに陥ることもマーケットでは想定済みということが読み取れる。

リスクプレミアムなどのきつい仮定を置いて算出しているため、絶対的な数値自体には大した意味がないかもしれない。しかし、市場の予想の方向性として、マイナス成長に陥る程の大幅な成長率の減速が既に織り込まれている可能性は高い。

2.マーケットがメインに考えているシナリオとは?
以下の表は、OECDが昨年の11月28に公表した2012年のGDP成長率予測である(「ECONOMIC OUTLOOK NO.90」のp.26-27)。

r120106OECD予想

(I)アップサイド・シナリオ…欧州債務危機の緩和
(II)ベース・シナリオ…アップサイドとダウンサイドの中間
(III)ダウンサイド・シナリオ…欧州債務危機の激化、米国の急激な歳出削減
マーケットの成長期待と照らし合わせると、現段階の株式市場としては、(III)のダウンサイド・シナリオをメイン・シナリオに考えているのではないか。言い換えれば、欧州債務危機の悪化や米国の政治的な混乱など、波乱の2012年をマーケットは既に冷徹に織り込んでいる。

(注1)「株式益回り=リスクフリーレート+株式リスクプレミアム-期待成長率」の算出
「株価=配当/(期待収益率-期待成長率)」
両辺を一株当たり利益で割ると、
「株価/一株当たり利益=1(*)/(期待収益率-期待成長率)」
 (*)長期的に配当性向は1に収斂すると仮定
 (**)期待収益率…リスクフリーレート+株式リスクプレミアム
両辺を逆数にすると、
「株式益回り=リスクフリーレート+株式リスクプレミアム-期待成長率」

(注2)期待成長率の考え方
上記の式の「期待成長率」は企業の利益に対する成長期待であり、厳密には国の経済成長率とは異なる。しかし、GDP成長率と企業業績には密接な関係があるし、大まかな数値としては的外れなものではないと考える。なお、算出した「期待成長率」は名目の値であることも付け加えておく。

高橋 正人