本書が示したように、大分岐を生んだのが「資本主義」だという通説は疑わしい。18世紀のイギリスでは、資本は稀少ではなかったからだ。「産業革命」だというのも、当時の中国の高い技術水準を考えると疑問だ。西洋が中国を追い抜いた最大の要因は、土地と燃料だというのが、本書の仮説である。新大陸の発見や植民地の拡大で、西洋の経済成長を制約していた土地が「輸入」できるようになり、木材の代わりに石炭を利用したことで産業が発展したという。
これは市場経済でグローバルに一物一価が成立するという当たり前の経済法則なので、その均衡に到達するまで止めることはできない。特に賃金の均等化は、あと20年は続くだろう。これは世界的には大収斂だが、日本国内では大分岐をもたらす。中国で生産できる製造業の価格も賃金も中国に近づき、雇用も流出するだろう。それと代替的な単純労働の賃金も、QBハウスのように中国に近づくことは避けられない。一部の人々が「デフレ」と騒いでいる現象は、こうした200年ぶりの歴史の逆転の一コマにすぎないのである。