ノマドワーカーたちよ、年収を詐称するのはやめなさい

常見 陽平

ノマドワーカーのオピニオンリーダー安藤美冬氏のネットワークビジネス疑惑(http://ameblo.jp/andomifuyu/entry-11278579473.html)で揺れる今日この頃だが、皆さんはいかがお過ごしだろうか?私自身、ノマドワーカーwなのだが、メディアにおけるノマドの取り扱われ方や、それに憧れ踊らされる若者たちに対していつも曖昧な不安を胸に抱いている。今日は彼らがよく発する「会社を辞めて、好きなことできて、年収横ばい(あるいは上がった)のでいいっす」という言葉のウソを暴きたい。

この言葉に騙されてはいけない。牧歌的なノマド論は許さない。

ぜ っ た い に だ。


特に一部の若者においてノマドが注目される理由のひとつは、組織・時間・場所にとらわれずに働ける、好きなことを仕事にできると思われているからだろう。実際、日本企業には閉塞感がある(と思われている)し、終身雇用崩壊ということが叫ばれる中、安定という名の終身刑を食らうくらいなら、好きなことをやった方がいいという考えにもなるのだろう。

この件については、同意する部分がありつつも、また自分自身もノマドワーカーをやりつつも、常に警鐘を鳴らしてきた。次の2つの記事を読んで頂きたい。

愛と幻想のノマド論 食いっぱぐれない働き方のぶっちゃけ話
(http://www.s-shiori.com/con3/archives/2012/03/post-150.html)

ノマド・ブームの煽り方は80年代のフリーターと同じ【常見陽平氏】
(http://nikkan-spa.jp/216988)

さて、ノマドのオピニオンリーダーと言われる人たちは「会社を辞めて、好きなことできて、年収横ばい(あるいは上がった)のでいいっす」などと言いだす。その言葉を鵜呑みにしている人も多いことだろう。

敢えて言おう、カスであると。

これに騙されているとしたならば、アナタのメディアリテラシーは小学生以下である。この言葉がひとり歩きしているわけだが、ツッコミどころは満載だ。

まず、額面のことを言っているのか、手取りのことを言っているのかが分からない。サラリーマン時代と違い、自分で法人を立ちあげていたり、個人事業主として青色申告をしていて税金対策をしている人はそれだけで待遇がよくなってしまうことがある。

この手のことを言い出す人は、20代のうち、いや人によっては入社1年目、2年目で退職しているので、そもそも年収が高くなかった事例もよく見かける。年収250万円の人が年収270万円になったのも、年収700万円の人が年収1000万円になったのもごちゃまぜにして「ノマドになって年収が上がった」と語られるわけだ。

さらに、厄介なのは、年収を詐称している事例も見聞きすることである。ちょっと社会人経験があれば、社名と職種と勤続年数などを聞くとだいたい年収の想像がつく。また、どんな仕事をしているか聞けば、案件の単価もやはり想像がつく。明らかに半分や3分の1になっているのに虚勢を張って詐称している人もいるわけだ。彼らはよく「貨幣経済から評価経済へ」なんてことを言うのだが、信頼を得るための根拠が詐称した年収というのはなかなか滑稽な事実である。

別の観点で言うならば、会社というのは給料の3倍以上の売上が期待される世界である。その後の生活が不安定であることも考えると、なぜ以前より上がらないのかと突っ込みたくなる(もちろん、そこを突っ込むと好きなことを出来るから給料は関係ないっすと言い出すのだけど)。

一応、ノマドワーカーをしていて、社畜時代に組んだ住宅ローンとクルマのローンを返せるくらいのレベルで、もっと言うと短期的な収入で言うならば大企業に勤めていた頃の1.86倍くらい稼げている立場からアドバイスをさせて頂く。

言わずものがなだが、安定収入の基盤を築き、生活水準を上げないことがコツだ。フリーランスになったばかりなら、「断る力」なんて言ってないで、まずはがむしゃらに仕事をすること、その中で得意な仕事を見つけること、ファンを増やすこと、武器を増やしつつしなやかにシフトすることもだ。このあたりは今度、本にまとめることにしよう。

なお、年収についての考え方は拙著『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)にまとめているので興味のある方は図書館で借りて欲しい。

会社に対する不満もいっぱいだが、ノマドも楽ではない。

安易な退職、ダメ、ゼッタイ、だ。

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