「社会保障制度改革国民会議」で“社会保障予算のハード化”を

小黒 一正

6月15日夜、民自公3党は社会保障・税の一体改革関連法を巡る修正で合意した。民主党が近々党内了承を得ることに成功すれば、消費増税法案の成立可能性は高まる。

政治的駆け引きが続いたここ数年間の政治情勢からみて、合意を成し遂げた3党トップの政治判断は高い評価を与えることができるが、改革の本丸は「社会保障(年金・医療・介護)の改革」であることはいうまでもない。


その際、最も重要な視点は、社会保障財源を明確化し、社会保障予算を「ハード化」(一般会計から社会保障予算への資金流入を完全に廃止)することである。

現在、社会保障(年金・医療・介護)の財源は、社会保険料のみでなく、公費負担でも賄われている。例えば、基礎年金はその給付額の5割を公費負担(一般会計からの補てん)で賄う仕組みとなっている。医療や介護も同様の仕組みをもつ。このため、高齢化の進展で社会保障給付額が急増していくと、自動的に公費負担も急増するメカニズムをもつ。

この公費負担を含む「社会保障関係費」は毎年1.3兆円のスピードで膨張していくから、これから政治はこの公費負担増を賄う財源をどう捻出するかという深刻な問題に再び直面する。

その場合、公債発行(財政赤字の拡大)で財源を捻出する方法もあるが、現在の日本財政の現状では限界がある。また、社会保障以外の予算削減で財源を捻出する方法もあるが、社会保障関係費は10年で13兆円も増加するため、限界があることは明らかである。

その際、少子高齢化が進展して社会保障の新たな財源が必要となるたびに、「どれだけ借金をするのか」「何を削って社会保障に回すのか」という議論が巻き起こり、政治的な利害対立を招くことになる。これは、社会保障の負担増を賄う「ベース財源」が明確になっていないことが最大の原因である。

この解決には、あらかじめ社会保障のベース財源(公債を除く)を一つに定めておくのが望ましい。すなわち、給付総額が100であったら、半ば自動的に、ベース財源の税率が変動して、負担総額を100に調整するようにルール化しておけばいいのである(注:厳密には中長期で社会保障予算の収支が一致する必要)。  

では、何をベース財源にすべきなのか。それは、社会保障(年金・医療・介護)について、事前積立を導入し、世代ごとの受益と負担が概ね一致しているならば、消費税でも、社会保険料でもかまわない。

そうした上で、一般会計と社会保障予算との間のマネーのやり取りを完全に廃止し、一般会計から、社会保障予算を「ハード化」する。つまり、ベース財源は社会保障のみに使う財源として固定化し、ほかの財源から隔離するのが望ましい。

これには、3つのメリットがある。第1は、社会保障における世代ごとの受益と負担の関係が明確になる。

第2は、受益水準が決定すると半ば自動的に負担水準がベース財源によって調整されるので、世代間格差を巡る政治的混乱を回避できる。

その結果、社会保障システムそのものが安定するはずである。自分たちがいくら払い、いくら受け取れるのかという目処が立つので、現役世代と老齢世代の双方が、安心して生涯の生活設計を組立てることができる。

第3は、社会保障財源を捻出するために、他の予算を半ば強制的に削減対象とすることもなくなる。社会保障のために別の財源を犠牲にすることがなくなるので、将来の成長に必要な予算(例:研究・開発投資)をその必要性に応じて合理的に編成できるようになる。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)