先週火曜日にフジテレビで開催されたIPTVフォーラムのシンポジウム「SYMPOSIUM on Web and TV 2012」に参加した。300名ほどが集まる盛会だった。技術セッションではNHKなどで実験されているシステムが紹介されたが、その説明は僕には次のように聞こえた。
わが国ではBML(Broadcast Markup Language)を用いてデータ放送を提供してきた。しかし、BMLも限界に近付いた。今後は、国際標準であるHTML5を用いてネットと連携した放送を提供していきたい。ただし、緊急地震速報のように公共の福祉のため優先する情報を最前部に表示する技術などについては、わが国から国際標準化団体(W3C)に提案していきたい。
これに対してW3C側は「日本での先行事例はW3Cでの国際標準化で参考にできる、よいユースケース(実施例)である」と評価を述べた。
しかし、シンポジウムを報道した記事は違う。時事通信がその典型。記事には、日本の先導的技術を元に官民が連携して世界的な規格づくりに乗り出す、と書いてある。SankeiBizの見出しはもっと露骨。『スマートテレビの国際標準狙う 総務省、スマホなど連携で汎用性高く』である。シンポジウムに出席していた僕の耳はおかしかったのだろうか。
12日当日、川端総務大臣が定例記者会見を行っている。その概要が総務省サイトに掲載されているが、日本がリーダシップを発揮しようという強い意思を持っているとは読みとれない。ガラパゴス化を避けるため日本からも国際標準化の提言をしていこう、という程度で、「日本が乗り出す」というニュアンスではない。森田総務大臣政務官は『スマートテレビの推進に向けて』と題してシンポジウムで特別講演したが、「国際標準の策定への寄与」という表現しかない。
僕の耳がおかしかったのではなく、メディアの耳がおかしかったのかもしれない。何度も指摘しているが、国際標準化についてメディアは進軍ラッパを吹くのが好きだが、そんなラッパは他国から警戒されるだけで百害あって一利がない。国際標準の策定に寄与していきたいという森田政務官の表現の方が政治的に正しいのだ。
山田肇 -東洋大学経済学部-