カナダの家計は苦しい? --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

カナダ政府や中央銀行が経済問題で一番気にしているのが家計の負債。この1年以上、カナダ中央銀行の定例会議のコメントに決まったように書かれる懸念事項はhousehold debt。

何故そこまで気にするかといえばその水準の上昇率。1980年には家計の可処分所得に対する借入金の割合は66%でした。が、最近は152%の水準になってきています。これはアメリカがバブっていた頃が160%でしたので、いかに高い水準かお分かりいただけると思います。主たる原因は住宅ローンですが、それ以外に全体的に「使いすぎ」の懸念あるのはカナダ人が一昔は考えもしなかったような低金利でお金を借りられることに踊っているといったら言いすぎでしょうか?


このあたりの考え方は日本と若干異にしますので多少説明が必要かと思いますが、欧米では金融機関からお金を借りられるというのは「偉い」ことであります。極端な話、自分で十分な貯金を持ちながらその貯金を使わず、わざわざ金利を払って借金をするぐらいなのです。理由は金融機関との信用創設であり、「借りられるなら借りることで自分が認められた」と考え「借入金にプライドを持つ」ぐらいの感覚なのであります。

カナダでは幸いにもアメリカと違い、金融機関の不動産等への貸付、融資はかなりシビアに査定されました。事実、あの住宅バブルの頃、カナダの銀行が貸せずアメリカの銀行が貸すぐらいの勢いでした。結果としてカナダの金融機関は健全性を保っているのですが、カナダ人の借入金は増え、上述のように懸念される水準に達しているわけです。奇妙と言えば奇妙です。

さて、その結果、昨日、カナダ政府は唐突の住宅ローンの保証に関する引き締め案を発表しました。7月9日より適用される主な変更ポイントは:

住宅の最長償却期間は30年から25年へ
ローンの借り換えをする際の最大借入額は住宅価値の85%から80%までに
住宅の政府保証は購入価格1ミリオンドル(約8000万円)の物件まで
など

この突然の変更は当然ながら不動産市場を冷やします。専門的な解説ではこのルール変更で金利が1%程度上昇したのと同じ効果がもたらされるだろうとしています。バンクーバー、トロントとも取引件数は低下気味でリスティングも上昇していますが価格はまだ一定水準で維持されています。この変更が不動産市場にどのぐらい影響を与えるかは注意深く見守る必要があります。

政府としては家計の借入金の水準はこのままでは維持できない状況にあるものの低金利政策は維持せざるを得ず、結果としてルール変更という策に出たと考えるべきでしょう。

賢いやり方かも知れません。

ところで噂されるカナダ中央銀行の9~10月の金利上昇の可能性ですが、カナダ大手銀行の最新のレポートでは「今年はないかも」というトーンに変わってきています。世界経済の行方が混沌としていますしカナダの各種経済指標も私が見ても金利を上げるほどインプレッシブではないと付け加えておきましょう。

今日はこのぐらいにしておきましょうか?


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年6月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。