情報通信政策フォーラムでは、6月27日に吉井勇氏に『新たな電波利用とサービス:エリアワンセグとNOTTV』と題して講演いただいた。NOTTVで導入された技術の中にはテレビ帯の姿を変えるかもしれない可能性があることが、講演を聞いてわかった。
NOTTVは単一周波数ネットワーク(Single Frequency Network:SFN)を採用した。放送区域全域にテレビ塔からの電波が届かない場合には中継局を設置する。地上デジタル放送では、テレビ塔からは25チャンネルで送信し、中継局からは40チャンネルで再送信するというように、多数のチャンネルを利用するマルチ周波数ネットワーク(MFN)が採用されている。同期が必要なSFNに比べてMFNのほうが構成は容易だが、一つの放送局が多数のチャンネルを利用するため、周波数の有効利用という点では問題があった。
NOTTVは最初に人工衛星に送信し、人工衛星から各地の中継局をつなぐ方法で同期の問題を解決した。地上デジタル放送に将来SFNを導入すれば、テレビ帯は1/3か1/4に削減できる。移動通信で爆発している電波需要に応える余地が生まれるわけだ。衛星中継には降雨に弱い欠点があるが、NOTTVを運用していく過程で解決されていくことを期待したい。
NOTTVでは、局外からの中継は「クロッシィ中継隊」が担当している。局外でのイベントなどには中継車を出動させることが今までは多かったが、NOTTVでは、三社のケータイの中から電波状態のもっともよいものを自動選択して中継する方法が採用された。ドコモのクロッシィなどを収めたバッグパック一つで簡単に中継する、この中継部隊を「クロッシィ中継隊」と呼ぶそうだ。
移動通信は高速化の一途をたどっているから、将来は「クロッシィ中継隊」でも地上デジタル放送の画質をまかなえるようになる。そうなれば、中継車が利用している帯域は他に転用できる。
NOTTVは利用者を集めるのに苦労している。開業二月後の5月末時点で契約者数は48034だそうだ。初年度目標の100万には道は遠い。このようにマイナーなサービスではあるが、ドコモの協力を得て放送業界が新技術にトライしていることが、吉井氏の講演からよくわかった。
山田肇 -東洋大学経済学部-