常識を変え、感性に訴える広告のスゴい力 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

地元の新聞をめくっていたらあるバンクーバーダウンタウンの高級コンドミニアムの一ページ全面のカラー広告。写真は内部造作を一切していないスッカラカンのコンドの部屋。価格は4億円から。

これ、売れるでしょうか?

私が不動産開発事業を行っていた時、巨額の広告宣伝予算をどう効率的に使うか苦労しましたが、同時に広告を通して訴えるものが何かによって反応はまったく違うということも感じていました。


このスッカラカンのコンドの写真を載せた趣旨は「あなただけの部屋を作ってください」というメッセージがこめられているのだと思いますが、逆効果のはずです。なぜなら、15年前に別のデベロッパーが同じスタイルの広告を出したのですが、まったく反応なく売れませんでした。理由は簡単で客はイマジネーションが出来ない、ということです。

無から有を想像するのは意外と難しいのですが、ある程度できていればああでもない、こうでもないといえます。無地のキャンバスに絵を描くのと枠取りしたところを塗り絵するのとは簡単さが違うのと同じです。

アメリカで家を建てるのに設計士にゼロから図面を起させる人はよほどの金持ちかこだわりを持つ人です。普通、スペックホームといって分厚い雑誌のようなカタログから基本設計を選び、あと、細部を指示していきます。

日本の大手建築メーカーも大体そんなところです。家を買いに行くと分厚いエクステリア、インテリアから細部にわたるカタログを山ほど渡され、「選んでください」といわれます。今時営業マンですらiPadでカタログ見せる時代なのに大手建築メーカーは客に重厚感あふれる本当に「重い」カタログをプレゼントしてくれます(笑)

さて、広告のキャッチもいろいろあります。が、大体、価格、機能、斬新性を競合的に見せているケースが主流だと思います。こちらの新聞では自動車の広告はとにかく価格、標準装備の比較が前面に出ます。ですが、案外そういう広告は目に入らないものです。

日経ビジネスに元電通の「伝説の男」、のちにシンガタ社を設立した佐々木宏氏の特集。同氏のキャッチは日本で知らない人がいないと思います(海外に住んでいる私でも知っています)。全日空の「ニューヨークへ、行こう」、トヨタのCMでビートタケシが秀吉に扮してバカヤローとさけぶシーン、ソフトバンクの白戸家の犬、サントリーの矢沢永吉がサラリーマンをしたBOSSのCM,JR東海の「そうだ、京都、行こう」などなど(日経ビジネスより抜粋)。

これらの広告は明らかに人の裏をかいています。ただ、何でも人と違ったことをやればよいかといえばそうではなくて大半の人が腑に落ちていないけど皆がこうするから、というものに対して鋭く「いや、こうだ!」と強く切返して背中を押していると思います。

通常の広告は商品そのものにスポットを当てるのですが、佐々木氏はマインドそのものを変えていく力を持っています。商品そのものならば商品を手に取ったとき「ヤッパリやめようか」と思う可能性もありますが、マインドを変えてしまうとそれを買うことを動機づけます。ここが広告のポイントなのではないかと思います。

バンクーバーで、車でいつも信号待ちをする交差点の横に巨大なマクドナルドの宣伝があります。言葉はほとんどなく、手に取りたくなるようなハンバーガーが実にうまそうにでんと映っているのです。あれを見るたびに「あぁ、ハンバーガー、食べたい!」と思ってしまいます。広告は考えさせるより、インスピレーションに訴えたほうがよい気がします。

私もそれを真似てカフェの広告でハムエッグマフィンの大き目のポスターを作ったりしました。いや、それなりに効果はあるものです。

こんなことをしていると本当にビジネスって楽しくて止められなくなります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年7月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。