「らくらくスマートフォン」はスマートフォンではない

山田 肇

累計で2000万台以上を販売した携帯電話「らくらくホン」には、テキスト読み上げに代表される多様な支援機能が組み込まれ、操作が容易で、高齢者や障害者が好んで使う名機種だった。富士通は後継機として「らくらくスマートフォン」を最近発売した。

しかし、らくらくスマートフォンはスマートフォンではない。アプリを選ぶことで利用者好みにスマートに変身できるのがスマートフォンなのだが、らくらくスマートフォンはアプリのダウンロードができない。報道発表には「Google Playからアプリケーションをダウンロードし、ご利用いただくことはできません。また、マップ、Gmail等、Google社が提供するアプリケーションについてもご利用になれません。」と書かれている。


フィーチャーフォンの時代には、電話やメールといった定型サービスしか利用できなかった。そんな定型サービスでさえも、小さな字が読めない、高音が聞こえにくい、といった事情で利用できない人々がいた。支援技術を組み込むことで誰もが利用できるようにしたのが、らくらくホンだった。

らくらくホンが提供していた支援技術はすでにiPhoneに組み込まれている。だから、僕の全盲の友人は自由にiPhoneを使っている。初期には補聴器利用者からFCCに訴えられたこともあったが、ユーザエクスペリエンスに着目して改良が重ねられた結果、iPhoneは使い勝手の良い機種となっている。

らくらくホンは優れたユーザエクスペリエンスの先駆けで、スマートフォン登場前なら世界に飛躍する可能性もあった。しかしガラパゴスに留まる道を選択した結果、優位性はアップルに奪われ、劣化版を出すはめに陥っている。

この現状は、世界への挑戦をためらう、日本企業の問題点を露わにするものだ。

山田肇 -東洋大学経済学部-