「中国、ヘビメタやめるってよ」日本の老舗バンドが中国のフェスから締め出された件

常見 陽平

尖閣諸島問題などをめぐり、日中関係に緊張感が走る中、ショッキングなニュースが届いた。中国で開催されるロックフェスに出演予定だった日本を代表するヘビーメタルバンドLOUDNESS。しかし、日中問題悪化により、中国政府からの要請で当日、直前に出演がキャンセルになったのだ。さらに、彼らは私服公安にがっちりとマークされているという。

ロックと国際関係について考えてみる。


この件はボーカリスト二井原実氏のブログにて明らかになった。彼らは23日(木)に現地入りし、24日(金)に開催予定の貴陽音樂祭に出演予定だったのだが、当日にキャンセルになった。ご存知の方も多いかと思うが、彼らは1981年に結成して以来、かなりの初期段階から海外で活動しており、アメリカ、アジアを中心にかなりの国でライブを行なっているのだが、政治的理由でライブがキャンセルになったのは初めてだという。26日(日)には香港でもライブを行う予定だったのだが、雲行きが怪しくなってきた。今週リリースされた、新作「2・0・1・2」はヘヴィネスとスピード感、叙情性と残虐性が見事に両立された彼らの近年における最高傑作だっただけに実に残念だ(ここで少しだけPVを観ることができる)

ボーカリストニ井原氏はブログにて、今回の背景について、次のように予測している。

中国政府のライブ中止要請は、考えようによっては、暴動が起こって日本人のメンバーやスタッフの怪我や命の危険の回避と言う側面もあるのか?
いやいや、中国政府の本音は観客の暴動から反政府抗議運動に発展するのを回避する・・・やろなきっと。

そう、たしかに反日感情から彼らが攻撃される可能性もあるわけだが、日本を代表する老舗ヘビーメタルバンドである彼らを目当てにやってくる観客は親日派だろう。ヘビーメタルに限らず、海外のロックのライブではたまに暴動が起こるものだが、反政府的抗議運動がその会場で起こる可能性はゼロではない。

ただ、どうやら中国の意図は前者のようだ。なんでも彼らには、私服の公安がついていて、行動をマークされているという。どこに行くにも尾行されている。ただ、敵対的尾行ではなく、むしろガードする様子であるようだ。彼らが飲食店に入った際も、ぼったくらないようにと店に指導していたそうだ。たしかに、彼らほど国際的に知名度があるバンドの身に何かがあれば、両国間の関係にますます緊張は走ることだろう。

国際関係に何かがあると、スポーツも音楽もその犠牲になることはよくある話ではある。特にヘビーメタルは、その演奏の激しさ、歌詞の世界観などから、そもそも理解されず、そのバンドの母国でも放送禁止になったりする。宗教上の理由から圧力を受けている国だってある。それこそ、世界にはヘビーメタルTシャツを着ているだけで逮捕される国はまだあるのだ。このあたりは『グローバル・メタル』という映画で描かれているので、レンタルビデオでいいので観て頂きたい。

とはいえ、やや厨二病的ではあるが、音楽というのは国境や文化、世代をこえ、人と人との交流を実現するものであり、安全面での配慮や、政治的思惑があったとはいえ、今回のライブキャンセルは実に残念である。若い頃、私は旭日旗Tシャツを着て、日本語の歌詞や下手くそな英語で(失礼!)海外のファンを唸らせている彼らの姿を観て、「世界に通用する強い日本人になろう」と誓ったものだ(とりあえず、北海道から内地に出てきたところで止まっているが)。

彼らの演奏が何かを変えたかもしれないのに。実に残念だ。

さて、彼らの香港公演は無事に行われるのか?あたたかく傍観することにしよう。

試みの水平線