ワタミからブラック企業を考える

生島 勘富

ブラック企業のすすめ
ブラック企業のすすめ – 就活生に向けて
ブラック企業のすすめ – やりがい搾取
日本に生まれたことは能力じゃない

こんなに長くなるとは思わなかったのですが、多くのご意見を頂いたのでまとめ。
分かりきっているので実名を出してしまいます。私がブラックと思っているわけではないのですが、渡邉美樹氏始めワタミの皆さま申し訳ございません。


■シバキ体質

渡邉美樹氏が以前、このようなお話をされていたそうです。

ワタミ社長「『無理』というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんですよ」
村上龍「?」
ワタミ「途中で止めるから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなります」
村上「いやいやいや、順序としては『無理だから→途中で止めてしまう』んですよね?」
ワタミ「いえ、途中で止めてしまうから無理になるんです」
村上「?」
ワタミ「止めさせないんです。鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる」
村上「一週間」
ワタミ「そうすればその人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう」
村上「・・・んん??」
ワタミ「無理じゃなかったって事です。実際に一週間もやったのだから。『無理』という言葉は嘘だった」
村上「いや、一週間やったんじゃなくやらせたって事でしょ。鼻血が出ても倒れても」
ワタミ「しかし現実としてやったのですから無理じゃなかった。その後はもう『無理』なんて言葉は言わせません」
村上「それこそ僕には無理だなあ」

まさしく体育会系の考え方(笑)

「鼻血が出ても倒れても」というのがどういう状況かも分かりませんが、TVですから、「殴り倒した」って言いそうになって、慌てて余計非道い表現になったんじゃないですかね(苦笑)。それはさておき、この「仕事の内容」は

  • 新規プロジェクトをとにかくやらせる。
  • 他にできる人がいてその水準までやらせる。

のいずれかで話は違ってきます。
もし、前者であって、新規プロジェクトが成功したのなら、それは素晴らしいことで、やり切った人は全ての苦しみを忘れられるぐらいの達成感があります。そこまでやって仮にできなくても、渡邉氏は「よくやった」と言うんじゃないでしょうか。

しかし、1週間やらせて、その後は「できない」とは言わせない、という内容から考えると、後者でしょう。他にできる人がいて「無理です」と言ってたのが、取りあえず「1週間できた」なら、「無理はウソだった(=甘えだった)」と言われても仕方がない。

自分で「無理だ」という人はそれ以上は伸びません。
それを教育するのに、目的を持たせて、励ましてというのは理想論ですが、1年で到達できるかどうか……。そこまで時間を掛けても辞める人も多い。企業(渡邉氏)から見れば、シバキ体質でやれば1週間でできることを、1年間、時間も、給与も、搾取され続けることになるわけです。

シバキ体質なんて、あり得ないと思う人も多いでしょう。

それは重々承知ですが、そう思う人の態度は、「(2:8の法則の)8割側の搾取する立場で『無理です』と文句を言う」という構図になっていることについて、どう思われますか?

■社員にとって悪いことか?

1週間でできるようになることを、多くの報酬を貰いながら何年も掛けてゆっくり成長することを求める人もいるでしょう。
しかし、基本的に、ゆっくり成長したいという人の仕事は非正規にまわります。そうじゃない人の仕事は、人によって成果が違う仕事になり、成果報酬(歩合制)や裁量労働制の、今の基準で言えばブラックな仕事にならざるを得ません。

ゆっくり成長することを許してくれるところがあるならそこに行けば良いのですけれど、日本全体がグローバルな競争をせざるを得ない状況では、そんな企業はほとんどありませんし、どんどんなくなっていきます。

無い物ねだりの我が儘ですよ。

仮に、ゆっくり成長させてくれるところがあったとしても、時間は有限ですから定年までにどこまで成長できるか分からない。それが望みの人は、どうしても非正規の道になる可能性は高いでしょう。

逆に、「早く成長したい」と思う人には、ベンチャーは向きますし悪くないのです。ベンチャーに合うかどうかには、「早く成長したい」と思っているだけでなく、もう一つ条件があって、無理を言われてやったとしても、「あの人にたった1週間で追いつけた!」とポジティブに考え、それを成功体験として次にチャレンジできるかどうかです。チャレンジを繰り返す人は、非常に早く成長し、20代、30代で取締役や、子会社の社長になったり、独立して成功する人が出ます。

(渡邉氏のような経営者は)「若者から搾取したい」ではなく、「20代、30代で大成功させてあげたい」って、心の底から真剣に思っていますよ。(そうでなかったらシバけません)
ただ、「ゆっくり成長したい」という人は眼中にないというのも事実ですから、そういう人から見れば違って見えるでしょう。

■精神論か?

所詮、体育会系の精神論と思う人も多いと思います。

しかし、それは全く違うのです。
※ 私はワタミ自身を詳しくは知らないので外側から見てるだけで、ベンチャー全般に言える一般論です。

精神論であの規模まで会社が大きくなるかというと、そんなことはあり得ないでしょう。肉体的、精神的にタフである。というのは、新人時代の最初に課せられる一番小さなハードルに過ぎません
本質とは何の関係もない極小さな属性です。

ワタミの経営を見ると精神論とは全く逆で、超が付くほどの合理主義。

例えば、渡邉氏は「レンジでチンして客に出すなんて手抜き料理は許さん!」なんて精神論は言わないでしょう……。

「8割側の搾取する立場で文句を言うことは許さない!」というのも、単なる合理主義ですし、「篩(ふる)いに掛けて、合わないなら早く辞めてもらった方が(お互いに)無駄が少ない」というのも、精神論ではなく、単なる合理主義なんです。

渡邉氏の考えを忖度すると、「必要は発明の母、心から合理化案が必要と思えるまで追い込まないと、良い合理化案は出て来ない」と考えてらっしゃるんじゃないでしょうか。ですから、恐らく、最初の肉体的、精神的なハードルを超えたら、「頭を使え!」って言われるようになるでしょう。その課題の急変について行けるかどうかが、次のハードルじゃないですかね。

■目標は何ですか?

前回、留学生の話を書きましたが、居酒屋やコンビニでアルバイトをしている留学生が、卒業後もアルバイトを続けたい。と思っている訳ではないでしょう。
ほとんどの留学生が、日本の若者より遙かに厳しい生活をしていますが、目標を持っている人は、「やらされている」とは思わないからできるのです。

例えば、ワタミに入って目の前のハードルに汲々として目標を見失い、「体育会系の精神論主義」と批判的な気持ちになってくると、「やらされている」と思うようになって危険です。そうなると、精神も体も壊してしまう可能性が高くなりますが、目標を見据えて本質を理解していれば、そこでは簡単には壊れない。

尤も、本質が分かっていなければ、タフさで最初のハードルを越えても、成長は「熱血店長」で止まるでしょう。
本人の目標が「熱血店長」なら問題ないですけれど……。

私はIT系なので飲食業界とは何の関係もありません。繰り返しますが、外から見た印象と一般論ですが、どこでも重要な本質は似たようなものなので、そんなに外れてないと思います。

もちろん、「大企業でゆっくり成長したい」という「無い物ねだり」をしても良いです。「無い物ねだり」に見事成功して大企業に入れば、上は目一杯詰まっていますから、若者として面白い仕事は少なく、望み通りゆっくり成長できます(苦笑)。さらに、身に付くスキルは、企業固有のそこにしがみつくスキルしかなかったりします。

私は、どんな大企業でも「若者の一生を保証できる」と言い切れない時代に、他所で使えないしがみつくスキルを、何年も掛けて鍛えるのは残酷と考えています。ですから、所謂ブラック企業と、大企業のどちらが「若者を使い捨て」にしているかと言えば大企業だと思いますけどね。

当たり前のオチで申し訳ないですが、大企業を志望しても何の問題もないですけれど、どこを志望しても、結局は「入って何をしたい!」という目標だけは、明確に持って欲しい。
まずは、明確な目標を持って、それによってベンチャーが向くのか、大企業が向くのか考えるべき。

目標がしっかりしていれば、多少、苦しくても乗り越えられます。
ブラック企業は、理解して自分に合うと判断して入るならおすすめです。

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生島 勘富
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