「駄目なものはダメ」は社会の進歩を妨げる

山田 肇

指定管理者としてTSUTAYAに運営を委ねる武雄市図書館が今日開館した。反対派は個人情報保護の問題を指摘してきたが、3月30日付けの読売新聞夕刊(九州版)は、「約3400人が3月4日から始まったカードの新規登録・更新手続きをし、うち95%はTカードを選択している。」と報じている。「名前が情報提供の対象外なので心配していない」「CCCの情報管理を信用している」からと、市民に支持されていることがよくわかる記事だ。

読売新聞から求められたので、僕はポジティブなコメントをした:民間の力を借りて経費節減を進めるべき時代の要請に合った取り組み。Tポイントの付与は、窓口の手続き時間が短縮できる効果がある。従来の図書館カードも選択できるので、情報の取り扱いに問題はない。

しかし、反対派の山本宏義・関東学院大教授(図書館情報学)は意見を変えていない。

図書館は『誰が利用した』という秘密を守ることも求められ、情報の取り扱いには細心の注意が必要だ。本来の目的ではないTポイント付与のため、企業のシステムとデータを連携することには賛成できない。

提供する情報は会員番号と利用日時、ポイントに限定し、氏名や住所、図書名は対象外とするといった対応がすでに取られているのだが、山本氏はそれでも不十分というのだろうか。いや、実は、「駄目なものはダメ」で思考停止しているだけかもしれない。

中村伊知哉氏の「デジタル教育反対派への10の質問」を読んで、まったく同様の感想を持った。中村氏は事実をもって反論するように反対派に求めているのだが、それが出る可能性は低い。デジタル教育反対派も「駄目なものはダメ」で思考停止しているからだ。思考停止について、中村氏は次のように書いている。

ぼくはメリット99:デメリット1と見ているので、「やる」と決断して動いています。これに対し反対派は、デメリットばかりを拡大・指摘する傾向にあり、バランスを欠いていると見受けます。まぁそれはいいんですが、じゃぁどうするか、が不足しているんです。

その通り。じゃあどうするかが不足しているのだ。公共団体による直営のままで、経費を削減し、開館時間延長などのサービス向上を図る方策はあるのか。反対派は答えられるだろうか。

「駄目なものはダメ」で止まる愚かさについては、松本徹三氏も今朝の記事で指摘している。松本氏は「日本人の精神年齢の事が少し心配になる。」とさえ、書いている。

「駄目なものはダメ」で思考停止すると、社会の進歩が妨げられる。図書館への指定管理者導入でも、デジタル教育でも同じ。これから国会で審議される共通番号制度も、「駄目なものはダメ」ではなく、論理的に事実に基づいて議論してもらいたいし、メディアも報道してほしい(朝日新聞の天声人語は「駄目なものはダメ」の典型だ)。

山田肇 -東洋大学経済学部-