先日は全米で就職人気ランキング1位に輝いたTeach For America(TFA)と、それに象徴される米英でのNPO人気について書いたが、そのTFAからスピンアウトし、アメリカ教育界に旋風を起こしている取り組みを紹介したい。「KIPP」(キップ)と名づけられたチャータースクールで、2013年現在、全米20州125校で4万1千人の子どもたちが学んでいる。
チャータースクールとは、アメリカで近年増えている学校形式で、教師や地域団体、保護者などの民間人が、州政府からの認可と予算を受けて、独自の運営方針で学校を運営する公設民営型の学校だ。1991年からアメリカで始まり、2011年には5千校を超えている。
KIPPはそのチャータースクールなかの一つで、「Knowledge Is Power Program」(知識は力なり)の略。特徴は、アフリカ系やヒスパニック系、低所得層の子どもたちを対象に、貧困から抜け出すための学力向上を目標とし、公立学校の基準を大幅に超える長時間の授業(平日9時間と土曜日の隔週授業)を行っている点だ。その原則を以下の5つの柱として掲げており、実際に、KIPPに通った大半の生徒は学力テストの結果が大幅に上昇している。
1)高い期待(High Expectations)
2)選択と努力(Choice & Commitment)
3)長時間授業(More Time)
4)指導力(Power to Lead)
5)結果重視(Focus on Results)
今や全米最大のチャータースクールに成長し、ビル・ゲイツやGAPの創業者もその活動に注目し、支援していることでも有名だが、始まりは24歳と23歳の若き二人の教師だった。同じく20代前半の若き女性によって始められたばかりのTFAによって、貧困地区の学校に派遣された2人が、そこでの経験をいかして自ら学校を創設、これまであきらめられていた子どもたちに希望の光を次々に届けていく。彼らの創業ストーリーを描いた本『情熱教室のふたり』が最近、日本でも出版されたのでぜひ読んでみていただきたい。どんな問題児に対しても一人ひとりの可能性を信じて、忍耐強く、情熱と創意工夫をもって指導していく姿は、教育のあるべき姿を垣間見る。
同時に、アメリカが抱えるイノベーションを後押しする環境が、彼らの成功事例を拡大させていることに気づく。一つは、TFAなどから優秀で情熱ある人材が、教育をはじめ非営利業界に多数供給されていること。2つ目は、彼らの取り組みにいち早く注目したGAP創業者フィッシャー夫妻による多額の支援や、さらにゲイツ財団の25億円にのぼる支援による全国展開といったように、NPOの成功の種を拡大させる仕組み/文化があること。そして、チャータースクールという、民間に公立学校の運営を任せるという、「公的機関という組織」よりも「個が持つパブリック精神」を尊重するアメリカ的制度。
アメリカでもチャータースクールの全てが成功しているわけではなく、賛否両論があることも確かだ。そもそも、どの国よりも教育格差が深刻なアメリカの教育システムを、全て礼賛するような姿勢は禁物だ。そうだとしても、日本の教育システムの限界が露呈している現在、一つのヒントとして、チャータースクール制度やKIPP、TFAの取り組みを真剣に考えてみてもよいのではないだろうか。
学びのエバンジェリスト
本山勝寛