国民目線の新たなIT戦略を期待する

山田 肇

自由民主党IT戦略特命委員会は『デジタル・ニッポン2013-ICTで、日本を取り戻す。-』と題する提言を取りまとめ、政府に申し入れた。間もなく政府が発表することになっている『新たなIT戦略』に反映されるため、その内容が注目されたが、5月23日に同党サイトで公開された。

提言で目を引くのは冒頭に「利活用していただくために」と題する章が設けられたことである。今までのIT戦略は供給側の論理だけで作られていたため、必ずしも国民に受け入れられなかった。電子申請の利用率が、71の重点手続きでさえも、40.4%(2011年度)と低いのが証拠である。「デジタル・ニッポン」は、「国民の利活用に向けて動機付けを行うように、供給側の全ての階層で対策を立てよう」としている。国民目線を重視する発想がやっと生まれたことを歓迎する。


提言は利活用を促進するために、地域間格差を解消し、高齢者にとって使いやすいサービスを提供する必要があるとしている。地域間格差解消のために通信基盤の整備を進めるとしているが、無線ブロードバンドとして整備を進めるべきだ(このことは、ぼくがハフポストに最初に投稿した記事に書いた)。光ファイバーのような有線系では、人口密度が低い地域で加入者一人当たりの建設費が著しく高くなる。き線点までの光ファイバー化は終わっているから、その先、加入者までは無線で接続するほうが負担は軽減される。

高齢者は行政サービスを最も利用するグループの一つである。しかし、わざわざ役所まで出向くのは大変、よく似た書類を何種類も提出するのは面倒、というような不満も抱えている。使いやすい、ワンストップ型の電子行政システムが出来れば高齢者は大歓迎だが、そのためには、アクセシビリティやユーザビリティへの配慮が欠かせない。他の記事に書いたように、行政のアクセシビリティに対する意識は低く改善が求められる。

電子政府に目を転じると、目玉の一つは「マイガバメント」である。

マイナンバーの導入にあわせて現在の「行政ポータル」等の取り組みを進化させ、国民1人ひとりが専用のポータルサイトを持ち、マルチチャネル(携帯・パソコン・窓口)から、個人のニーズ(高齢者・母子家庭等)に応じた情報を得られ、必要なサービスを国・自治体といった組織に関係なく受けられる国民主体の「マイガバメント」を構築すべき。

よい提言だが、このポータルの閲覧を促すにはどうしたらよいだろうか。「新聞の未来」についてのセミナーで、新聞と同様に朝晩更新するだけでは購読者が満足しないので、電子版には3倍の記事を載せているという話を聞いた。行政ポータルの更新頻度はもっと少ないだろうから、閲覧を促すには仕掛けが必要である。それに関するアイデアを雑誌『行政&情報システム 4月号』に書いた。ヤフーやグーグルを開くと、行政からの連絡が画面の一部に表示されるというものだ。これを実現するには、行政と民間のアプリケーションインタフェースをきちんと定めておく必要がある。今後ぜひ検討してほしいものだ。

『デジタル・ニッポン』は国民目線を強調する画期的な提言であり、政府の『新たなIT戦略』に反映されるよう期待する。

山田肇 -東洋大学経済学部