国立大学の校舎は危ない

森本 紀行

国立大学は、独立行政法人の一類型である国立大学法人が経営している。だから、会計は独立行政法人が使う公会計の仕組みだ。一方、私立大学は、企業会計に近い学校法人会計を用いている。両者の一番大きな差は、校舎等の施設の会計処理である。


国立大学の校舎や研究棟のような施設は、他の公共施設と全く同じように、税金で建てられ、老朽化が進んで建替えるときは、再度改めて税金が投入される仕組みである。長期的な視点で大学全体の施設を計画的に維持管理するような財政の仕組みはない。要は、必要なときに、その都度、国に建設を要請するという行き当たりばったりの無計画が本質である。

ところが、私立大学の場合は、施設維持のための財源の確保が義務化されている。つまり、資産勘定の施設等の減価償却前の残高に一致した額が、負債・資本勘定に基本金(第一号基本金といいます)として確保されなければならないという厳しい規制があるのだ。即ち、施設は減価償却していきますが、償却累積額は流出させてはならず、現金等の流動資産で基本金として留保されなければならないのである。

この意味するところは、私立大学が一定の金額で施設を建設すると、その建設に要した額を将来の更新再建築のために留保し続けなければならないということだから、施設が老朽化して再建設するときは、それに要する資金の蓄積は事前にできているということである。

私立大学の場合は、永続性を前提として、施設の恒久的管理のための財源確保がなされているのに対して、国立大学の場合は、でたとこ勝負の国頼みで施設を維持しているということだ。おもしろいのは、私立大学に施設維持原資の確保を命じているのが国の規制であることだ。民間には厳しく、自分には甘いのが政府の体質のようである。

一般に、私立大学に限らず、どの民間企業も、事業継続の永続性を前提として、施設の維持管理費用を計画的に積立てるなり、必要資金の調達が円滑に行われる条件を整備しておくなりの対策をとっている。当然のことである。しかも、こうした資金計画を建てる前提として、施設の維持や新建設・再建設の必要性も真剣に検討されるのである。これも当然のことである。しかし、政府による施設建設の場合は、この二つの当然のことが行われていない。ここに大きな問題があるのだ。

建設を続けて施設が増大すればするほど、管理費や改修費、老朽化に伴う除却廃棄費用と再建築費など、維持費も増大していく。新規建設を停止したとしても、維持費だけで膨大な金額になってしまう。いまや、政策課題は、建築から維持へ変わらないといけない。そうしないと、国立大学の校舎は危険なコンクリート構造物と化し、学問どころではなくなるのだ。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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