娘が風邪を引いたので病院に連れていった。いつものように、診療費も薬代も支払う必要がなくタダだった。健康保険による7割とは別に、自己負担分3割が支援される東京都の乳幼児医療費無料制度によるものだ。子どもたちを病院に連れていく度に大変ありがたいと思う制度なのだが、薬をたくさんもらうときもタダなので、税負担が心配にもなる。そこで、この制度について少し考えてみたい。
子ども医療費の無料制度は各自治体がそれぞれ導入しているもので、導入の有無や対象年齢も様々だ。東京都の場合、小学校入学までが原則無料で、23区の場合は中学3年生までが対象となるようだ。他の道府県でも導入が広がっており、乳幼児を対象とする自治体が95%以上、9歳以上を対象とするところも40%近くにのぼるようだ。
各自治体が導入している制度なので全国でどの程度税負担がなされているのかまとまった資料はみつからなかったが、0-4歳児の医療費が平均で年間約22万円、5-9歳が平均11万円で、年間100万人の子どもが生まれることからざっくりと推測すると、小学校入学までの支援制度は、6.6万円×100万人×4年+3.3万円×100万人×2年=約3300億円になる。深刻な少子化問題を考慮すると重要な子育て支援政策ではあるが、決して少なくない額だ。
しかし、これを高齢者の医療費と比較すると、日本がいかに高齢者医療費に財政支出しているかが分かる。たとえば、自己負担が1割の70歳以上でみると、医療費の年間平均が70-74歳で60万円、75-79歳で76万円、80-84歳で89万円だ。子どもや若い世代の医療費と比べると10倍近くになる。この医療費の自己負担1割を除く大半が、現役世代の健康保険と税金によって賄われているわけだ。実際、年間37兆円の医療費のうち13兆円が公費負担だ。当然、高齢化によりこの額は右肩上がりであり、年金と合わせてどうにかしないと立ちいかなくなることは目に見えている。
こうした将来の破綻が目に見えているのに、問題を先送りにしているのが、与野党含めた今の政治の姿である。たとえば、70-74歳の自己負担を1割から本来定められた2割にする措置も、なかなか決断できずに先延ばしされている。この措置だけで年間約2千億円で、先述の乳幼児医療費無料制度とほぼ変わらない規模だ。
子ども医療費は、少子化問題を考えると必要な施策ではあると思うが、少なくとも窓口でどの程度の診療費と税負担があったかを示す明細書を渡すべきである。患者負担がないからと言って、薬を余分に処方せずに、できるだけムダをなくす努力が医師と患者双方に必要だ。さらに、本丸である高齢者医療費についても、自己負担の割合や、高所得の高齢者の方々の負担、消費税などをタブーなく検討し、問題を先送りせずに決断すべきである。
学びのエバンジェリスト
本山勝寛
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「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。