「スポーツは伝統を重視すれば未来が開けるのだろうか」という記事を先日書いた。情報通信政策フォーラム(ICPF)では、この春、メディアの未来に関するセミナーシリーズを開催してきた。新聞、音楽、テレビ、ラジオと順番に話を聞いたが、スポーツと同じように、伝統を重視するあまり時代に遅れていく姿に危惧を感じた。
新聞は電子版を発行するなど、ネットへの対応が比較的進んだメディアである。しかし電子新聞では、紙面ビュワーという、スクリーン上に新聞紙が置いてあるかのように表示する形式が取られている。僕は、Yahoo Japan!のように、カテゴリーごとに列挙すれば十分だと思うのだが、移行は先の話だそうだ。紙面というは新聞社が記事に優先順位をつけて構成したものであり、読者に対して新聞社の権威を示すものだ。だから、電子版といってもそれを外すのが怖いのだろう。
音楽では、依然として、CDのランキングがすべてである。順位を少しでも上げるために、計算上は同一の新譜と勘定されるが、少しずつ内容を変えたバージョンを発売して、ファンにまとめ買いさせる悪い風習が蔓延している。SMAPの新譜には、スカイブルー、ビビッドオレンジ、レモンイエロー、ライムグリーン、ショッキングピンクというバージョンがあるそうだ。
テレビはハイブリッドキャストの実用化に向かっているが、真の意味での双方向性は実現せず、評判の悪い時代遅れのデータ放送を改良しただけのこと。基幹メディアとしての公共性・中立性といったしがらみの中では、漸進的な改善が精いっぱいである。
ラジオに関するセミナーでは、総務省からラジオネットワークの強靭化に関するプレゼンテーションがあり、それを元に質疑応答が重ねられた。ラジオ局社員からの質問に対する講師の回答は強烈だった。
質問:中間取りまとめを実施すれば数十年は持つかもしれないが、その先はどうなるのだろうか。
回答:そんなに楽観して良いのか。事業者によっては5年先に苦境が来るかもしれない。将来を真剣に考えてほしい。
総務省ですら危惧するほど、ラジオ局の改革は進んでいない。
セミナーを通じて感じた心配ごとはただ一つ。メディアは伝統を重視すれば未来が開けるのだろうか。
山田 肇 -東洋大学経済学部-