2009年初頭の就任演説で、オバマ大統領は、経済の成功は、単にGDPの大きさによるだけではなくて、「繁栄がおよぶ範囲」(the reach of our prosperity)に、そして「意欲ある全ての人々に機会を拡大させていく能力」(our ability to expand opportunity to every willing heart)によるのだと述べている。
さらに、これは「慈悲」(charity)によるのではなくて、「共通な利益(our common good)への確実な道筋」だからなのだと付け加えている。繁栄するもの(the prosperous)からの富の再配分を、繁栄するものの「慈悲」(charity)によるのではなくて、「共通な利益」の実現手段として、政治の責任によって行うことを述べているのである。
それにしても、2008年の金融危機までの米国では、資本市場の規制緩和が進み、金融商品の取引は、量的にも、質的にも、飛躍的に成長してきた。その急激な成長過程で形成された歪みが危機を生んだわけである。オバマ大統領も、演説の冒頭に近いところで、一部の人々の「貪欲と無責任」(greed and irresponsibility)を挙げていた。
そこへオバマ大統領が颯爽と登場し、価値観の転換を宣言したのであるから、資本市場の進む方向も大きく転換するに違いないと思われた。あるいは、金融政策として、積極的に資本市場の構造改革が行われるのではないかとも期待された。資本市場の構造が変われば、資産運用も変わるはずだった。
しかし、現実には、大きな歴史的な転換は起きなかったようである。やはり、資本市場の力の上に成り立つ経済成長の仕組みは、市場を支える「繁栄するもの」のリスク負担力に依存せざるを得ず、その根本を変えることはできないのであろう。
「繁栄がおよぶ範囲」の拡大は、「繁栄するもの」の更なる繁栄により、裾野が拡大することによってしか、実現できないということであろうか。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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