旧聞に属するが、2月5日の読売電子版に「朝日新聞は『安倍政権打倒が社是』…首相、と言う見出しで、以下のような短い記事が載っている。
安倍首相は5日の参院予算委員会で、特定秘密保護法を巡る一部報道に関し、「この数か月間行われてきた言辞が正しかったかどうか」と不快感を示し、「検証すれば極めて有意義だ」と述べた。
同法は、安全保障に関わる機密情報を漏らした公務員らへの罰則を強化することが柱だが、首相は「飛んでいる(米軍の新型輸送機)オスプレイを撮り、友人に送ったら懲役5年という議論もあった」と指摘。「誰かやってくださいよ。全くそんなことは起こらない。言った人は責任をとっていただきたい」と気色ばむ一幕もあった。さらに朝日新聞について、「安倍政権打倒は社是であると聞いた。そういう新聞と思って読んでいる」と語った。
日本のマスコミがいくら極端だと言っても、自国の政権を倒す事を社是とした新聞などが存在するとはとても信じられない。
しかし、首相からこの様な暴言を吐かれても、朝日が格段の抗議もしない事はそれが事実なのか? とも思えるが、いくら探しても朝日の安倍政権打倒と言う社是は見当たらない。
マスコミでこのような社是を定める事が出来るとしたら、公私に亘る想像も出来ない横暴の限りを尽くしても許されてきた読売新聞グループ本社会長・主筆の渡邉恒雄氏しかないと思い、渡邉氏のの人となりをウイキペデイアで検索してみた。
そこには、同氏にまつわる色々なエピソードが出ているが、「靖国神社に対する見解」と言う項目に:
「2005年、日本の戦争責任の反省のため、総裁兼編集長の渡邊恒雄の主導のもとで、日本の読売新聞社は戦争責任検証委員会を創設し、『戦争責任を検証する』という本にまとめ、日本語版と英語版を出版しており、中国語版も新華出版社から出版・発行された。中国語版の序文では『本書を出版した動機は、日本のこの戦争に対する非人道性及び責任の所在を研究して明白にし、日本人自身の良心に照らして、正確な歴史認識を得てはじめて、被害国と率直かつ友好的な対話が可能になる、との信念からにほかならない』と強調している。
渡邊は『日本の首相の靖国神社参拝は、私が絶対に我慢できないことである。今後誰が首相となるかを問わず、いずれも靖国神社を参拝しないことを約束しなければならず、これは最も重要な原則である。…もしその他の人が首相になるなら、私もその人が靖国神社を参拝しないと約束するよう求めなければならない。さもなければ、私は発行部数1000数万部の“読売新聞”の力でそれを倒す』と答えている。2001年から2006年に靖国神社を参拝した当時の首相の小泉純一郎に対しては、『もしもメルケル(ドイツ首相)がヒトラーの墓参りをしたらどうなるのか』という例え話を用いて批判し、小泉が自分の靖国参拝は『心』の問題だと語っていた事に対し渡邊は『私はそれは偽善的であり、彼は心から参拝に行きたいと思っているのではなく、そういうパフォーマンスで、戦犯の遺族から得票を増やすためであったと思っている。』と主張している。
旧日本軍の戦争行為に対する見方も厳しい。特攻作戦に対しては『今でも許せない軍の非人間的作戦』、アッツ島の戦いで大本営が前線にいる兵士に全員自決せよとの命令を出した玉砕に対しては『前線の将兵に対する鬼畜の行為』と激しい怒りを露わにし、石原慎太郎同様に戦陣訓を作成したとされる当時の陸軍大臣の東條英機を批判している。渡邊曰く『焦土作戦や玉砕を強制した戦争責任者が祀られている所へ行って頭を下げる義理は全く無い』『加害者と被害者を同じ場所に祀って、同様に追悼、顕彰することは不条理ではないか』
靖国神社の遊就館に対しては、真珠湾攻撃などの日本が勝利を勝ち取った写真が展示されているため、『非常に有害な場所であり、あれは閉鎖しなければならない。』と閉鎖する事を主張している。かつて自民党の幹事長であった加藤紘一は遊就館を参観した後、遊就館はまことに行き過ぎだと語った。
尊敬している中国人政治家は鄧小平と述べ、渡邊が鄧小平に日本の対中侵略戦争の責任問題に対しどうに見ておられるのかと尋ねたところ、鄧小平は侵略戦争を起こしたのは日本政府と軍隊の中のひと握りのものであり、広範な日本国民に罪はないと言明し、渡邊はこの言葉を聞いた後『親中派』となったと言う。
と言う記述がある。
この記述が事実なら、靖国批判や中国擁護などの渡邊氏の主張に比べれば朝日の主張などは穏健そのものである。
しかも、「今後誰が首相となるかを問わず、いずれも靖国神社を参拝しないことを約束しなければならず、これは最も重要な原則である。…もしその他の人が首相になるなら、私もその人が靖国神社を参拝しないと約束するよう求めなければならない。さもなければ、私は発行部数1000数万部の『読売新聞』の力でそれを倒す」と答えるに至っては、自らも会長を務めた新聞協会が毎年発表する新聞倫理綱領http://www.pressnet.or.jp/outline/ethics/ で「自由と責任」「正確と公正」「独立と寛容」「人権の尊重」「品格と節度」の原則の厳守を縷々として読者に誓った事が、全くの虚偽であった事になる。
と言う事は、渡邊氏は単なる独裁者だけでなく、とんでもない嘘つきと言っても過言ではない。
自ら「俺は最後の独裁者だ」と自負する渡邊氏が「靖国を参拝する首相は、誰であろうとも発行部数1000数万部の『読売新聞』の力でそれを倒す」と言うのだから、「安倍政権打倒は社是である」のは「読売新聞である事には論議の余地はなく、首相は「朝日新聞」と「読売新聞」を取り違えたとしか思えない。
渡邊氏の靖国問題の主張の是非は兎も角、自分の主張に合わない政権はメディアの力でクーデターを起こすと公言する人物に日本の有力メディアが支配される事は、国民の品格にもかかわる問題である。
ちなみに渡邊氏も読売新聞もウイキペイデイアの記述に誤りがあれば訂正する自由と権利がありながら、永い間掲載されてきた今日でも訂正されていない事を付記しておきたい。
2014年2月18日
北村隆司