IAEAの「自立宣言」 --- 長谷川 良

アゴラ

「7月20日はIAEAとイラン間の交渉期限ではない。米英など6カ国とイラン間の期限だ」

国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は5月2日午後、記者会見でこのように答えた。IAEA側の「自立宣言」ともいえる。

ウィーンの本部で2日、IAEA定例理事会が始まった。同日、国連安保常任理事国とドイツの6カ国とイラン間の核協議専門家会合がこれまたウィーンで行われた。


記者団から「両者は偶然の一致か、それとも日程は事前に調整した結果か」という質問が出た時、天野氏は「事前調整などしていない。IAEAとしては6カ国とイラン核協議から技術的問い合わせがあるならば、いつでも応じる用意はある」と答えたうえで「IAEAは核保障協定(セーフガード協定)に基づいて核関連活動の検証が主要目的だが、イランと6カ国協議は政治的な性格が強い」と両者の相違を明確に説明した。
 
天野事務局長は2日午前、理事会の冒頭声明の中でイランの核問題に言及し、「イランの核計画が平和目的であると結論を下すことはできない」と指摘する一方、「IAEAは5月20日、イランと5項目の追加履行項目で合意した。イラン側の協調を歓迎する。合意事項が履行されることをを期待する」と述べている。

天野事務局長が5月23日、理事国に提出した最新のイラン核報告書によると、イランは、昨年11月の暫定合意に基づき、核兵器転用可能な20%の濃縮ウランを希釈や酸化ウランへの転換を通じて減少し、備蓄を209.1キロから38.4キロと80%以上削減させた。また、テヘランは核兵器生産につながる起爆装置の開発に関する文書提示など7項目の合意事項を履行したという。

2003年以来、IAEAの議題となってきたイランの核問題はようやく全容解明に向かって動き出してきた。具体的には、天野事務局長が昨年11月11日、イランの首都テヘランを訪問し、サレヒ原子力庁長官らと会談、イランの核問題を検証する「協調のための枠組み」に関する共同声明を発表して以来だ。

一方、2006年から始まった6カ国とイランの核協議はイランの核兵器開発容疑問題の透明性と対イラン制裁問題が主な議題となってきたが、行き詰ってきた。しかし、イランで昨年8月、穏健派ロウハニ師が大統領に就任し、「核問題の早急な解決」に意欲を表明して以来、核問題は動き出したきた経緯がある。

天野氏は「われわれは一歩一歩、じっくりと解決に向かって努力していく。交渉の最終期限を質問されても答えられない。全てはイランの対応と交渉次第だからだ」と述べた。すなわち、6カ国協議が提示した「7月20日」までにイランの核問題の解明が実現されなければならないとは考えていないわけだ。

米国とイスラエルは依然、イランが核兵器開発を進めているという懐疑を払拭していない。そして、時間はイラン側に有利に働くと考えている。そのような時、天野氏は「われわれは慌てることなく、一歩一歩駒を進めていく」というのだ。

IAEAは核分野の専門機関だ。政治的解決を模索する6カ国協議のテンポとはどうしても違ってくるが、前者が後者を主導することは残念ながらこれまでなかった。イラクの核問題を想起するまでもない。だから、ある段階でIAEAへの政治的圧力が高まることは排除できない。

実際、IAEAはイラン問題に取り組んで11年目を迎えた。時間は十分過ぎるほどあったが、政治的圧力がなくしては、技術的な解決の見通しはなかった、というのが現実だ。

理想は、IAEAと6カ国協議が密接な連携を取り、相互補完しながら迅速にイランの核問題に取り組むことだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。