中国にとって韓国は「親戚の家」? --- 長谷川 良

アゴラ

中国の習近平国家主席は先日、韓国を公式訪問し、中韓の蜜月ぶりを披露したが、韓国日刊紙の中央日報によると、習近平国家元首は韓国を「親戚の家」と呼んだという。いつから中国は韓国を親類の家と見なしてきたのだろうか。中国共産党政権の国家元首から「我々は親類」と呼ばれて果たしてどれだけの韓国民が快く感じただろうか。


中央日報日本語電子版(7月13日付)は「中国が韓国を好意的に表現したのは高句麗滅亡以来初めてだ」と指摘、その変貌ぶりに当惑している。韓国民も同じだろう。南北分断下で生きる韓国民はその分断をもたらした責任の一端を担うのが中国だということを忘れてはいないだろう。習近平主席は中韓関係を「数千年にわたる熱い情の歴史」と述べたというが、中央日報記者は懐疑を呈している。以下、同記事の一部を紹介する。

「習主席は、ソウル大学での講演で『歴史的に、危険が発生するたび、両国は共に苦難を克服した』と語った。習主席は、壬辰倭乱(文禄の役)や植民地時代の韓中共同抗日抗争を例に挙げた。間違ってはいない。しかし韓国人の記憶の中で、中国は味方だったことより、侵略者だったことの方がはるかに多い。高句麗は隋の煬帝や唐の太宗から侵略され、高麗は元の支配を受けた。丙子胡乱(1636~37年)のとき、清は朝鮮の国王に、膝をつかせ拝ませるという「三田渡の屈辱」を強いた。6・25戦争の際も、中国は韓国に銃口を向ける主敵だったと書いている。ここまでは、遠い昔に起こった過去の歴史ということで済ませるとしよう。問題は、中国の『歴史侵犯』がまだ終わっていないという点だ。高句麗を自国の歴史に編入しようとする、中国の『東北工程』は、現在もなお進められている。アリランや端午の節句、オンドルを『中国のもの』と主張し、キムチの縁故権まで主張している。こうした中国の歴史膨張主義は、いつか爆発して、韓国に刃が飛んでくるかもしれない。『厚い情の歴史』と簡単に片付けて済ませるには、危うい状況だ」

習近平主席を接待した朴槿恵大統領には上記の記事を読まれることを勧めたい。韓国人記者が史実に基づき、中国に対する民族感情を適格に表現しているからだ。当方は朴大統領に中国国家元首に「歴史の正しい認識」を要求し、謝罪を要求すべきだと書いた。残念ながら、朴大統領は習近平主席に謝罪を求めず、ゲストを北京に帰らせてしまった。

中国共産党政権は韓国を米国の対中包囲網突破の先兵に利用しているだけだ。韓国企業は現在、中国製の進出で世界の貿易市場で苦戦してきた。あと数年経過すれば、韓国製は中国製に完全に敗北してしまうだろう、と予想するエコノミストすらいるほどだ。その時、韓国は中国の親戚というより、その属国の地位に置かれているのではないかと懸念する。

中国共産党政権には真の友人はいない。中国政府首脳は頻繁にアフリカ諸国を訪問するが、あくまでも資源外交であり、輸出先の開拓に過ぎない。アフリカ諸国は「中国の友人」ではない。北京は欧州諸国から「友人」扱いされることを願ってきたが、欧州側は中国共産党政権が独裁政権であり、人権蹂躙国家であることを熟知しているから、中国を「友人」とはみなさない。

習近平主席は今年3月28日、ドイツを公式訪問し、アンゲラ・メルケル首相、ヨアヒム・ガウク大統領と会談した。習主席は、両者から北京当局の人権蹂躙を指摘され、言論の自由の重要さを諭された。そして行く先々で海外亡命チベット人や法輪功信者たちの抗議デモに遭遇せざるを得なかった。独高級紙「フランクフルター・アルゲマイネ」(FAZ)は同月28日電子版で「中国とドイツはパートナーだが、友人ではない」(Partner, keine Freunde)と厳しい表現で両国関係を総括していたほどだ(「なぜ中国は欧州の友人でないのか」2014年3月31日付参考)。

「真の友人」がいない中国共産党政権が昔の属国だった韓国を「親戚」と呼んで甘い声を掛けている。韓国が中国のその誘いに乗って国運を失わないことを期待する。中国は北朝鮮と同様、一党独裁政権なのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年7月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。