朝日新聞の大誤報は強い批判を浴びていますが、実は朝日はかなり早くから「強制連行」はおかしいということに気づいていていました。1993年の河野談話も、他社が「強制連行」と書いたのに、朝日だけは「強制」と書いたと自慢しています。
それなら、そのとき過去の記事は間違いでした、と書けばいいのに、その後も「強制性」とか「広義の強制」が問題だと話をすり替えてきました。8月5日の1面の記事では、こう書いています。
戦時中、日本軍兵士らの性の相手を強いられた女性がいた事実を消すことはできません。慰安婦として自由を奪われ、女性としての尊厳を踏みにじられたことが問題の本質なのです。
「女性の尊厳」とはいいことばですね。それに反対する人は、一人もいないでしょう。朝日新聞は女性の人権を守る新聞で、それを批判する人は女性の人権を否定する悪い人だ、というわけです。
実は吉見義明さんや福島みずほさんなども、今では強制連行がなかったことを認めています。この話は、もともと吉田清治というおじさんが「日本軍が女性を連行して慰安婦にした」という話からはじまったので、それが嘘だとわかったら話は終わりなのですが、こういう「人権派」のみなさんは引っ込みがつかないので、「強制連行はなくても強制性はある」といいはじめたのです。
たしかに慰安婦は売春婦ですから、身売りは多かったでしょう。これは親が借金するとき、娘がその借金を負うもので、売られた女性は働いた給料を借金の返済にあて、借金を返すまで家に帰してもらえなかったのです。これはたしかに強制ですが、その主語は売春業者です。
欧米のメディアは最初の事情をよく知らないので、こういう話だけを取り上げて女性の人権を問題にすることが多い。たしかに売春をこのんでする女性はいないので、なんらかの意味での強制があったのでしょう。それがいいことか悪いことかといわれれば、いいことだという人はいないでしょう。
では朝日新聞は、戦前の吉原でも身売りがあったことをどう考えるのでしょうか。それは別に戦争のときにかぎったことではありません。貧しい農村の娘は、売春宿に泣く泣く売られていったのです。朝日の書いているような涙のストーリーは、吉原にはたくさんあります。
吉原で女性の人権をうばったのは、軍でも政府でもありません。貧しさです。食べるものにも事欠くようになったとき、女性が最後に売り物にするのがセックスなのです。それは歴史とともに古く、売春は「人類の最古の職業」といわれています。軍とも国家とも関係ありません。
そういう悲しい時代があったことを、たまには思い出すのも悪くありません。よい子のみなさんには想像できないと思いますが、貧しさは多くの人の人権も命も奪ったのです。江戸時代まで、日本人の平均寿命は30歳ぐらいでした。
当時の朝鮮人が身売りしなければいけないほど貧しかったのは、近代化がおくれて所得が日本の半分ぐらいだったからです。おまけに戦争で(朝鮮人を含む)多くの日本人の命が奪われました。その中で、売春婦の人権だけ取り上げてもしょうがない。戦争こそ最悪の人権侵害なので、戦争を二度と起こさないことが大事です。