増税で実質成長が初めてマイナスになった訳ではない

小黒 一正

以下の記事のように、2014年4月の消費増税により、実質GDP成長率が初めてマイナスに陥ったような印象を与える報道が多い。
 


2014年11月18日読売新聞・社説
GDPマイナス 消費増税延期は避けられまい

予想外のマイナス成長である。景気の停滞が一段と鮮明になった。

内閣府が発表した7~9月期の実質国内総生産(GDP)速報は、前期比0.4%減、年率では1.6%減と、2四半期連続のマイナス成長だった。

安倍首相は、来年10月に予定される消費税率10%への引き上げを1年半程度先送りする考えだ。その判断の是非や、安倍政権2年間の実績の評価を問い、衆院解散・総選挙に踏み切る意向である。

厳しい経済情勢が確認された以上、消費増税よりも、それが可能な経済体力の回復を先行させるのは、合理的な判断と言える。(略)


確かに、内閣府の「7-9月期の四半期別GDP速報」(2014年11月17日公表)によると、増税後の4-6月期の実質GDP成長率(季節調整値)は前期比1.9減、7-9月期は前期比0.4%減であった。

しかし、上記のような印象は間違いだ。なぜなら、理由は単純で、以下の図表のとおり、増税前で駆け込み需要が発生する前の2013年10-12月期の実質GDP成長率もマイナス(前期比で0.4減)であったからである。

むしろ、2013年度の実質GDP成長率が2.3%で高水準であったのは、約10兆円の補正予算による公共事業や増税前の駆け込み需要で成長率が嵩上げされたからに過ぎない。実際、2013年10-12月期の実質GDP成長率はマイナス(前期比0.4%減)であるが、その前の4-6月期は0.8%増、7-9月期は0.6%増であり、増税直前の2015年1-3月期は1.6%増となっている。

また、そもそも、1980年代の実質成長率(年率平均)は4.3%、90年代は1.5%、00年代は1.4%(リーマン・ショックの影響を除くため2000~08年の平均。09年も含めると0.7%)であり、いまの自然体の成長率は1%程度であると考えられる

にもかかわらず、内閣府が2014年7月25日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」)では、2013-22年度の実質GDP成長率を年率平均で2%にする「経済再生ケース」を目標(標準ケース)に設定し、その実現を目指している。この目標成長率が高過ぎるのだ。

急速に人口減少・少子高齢化が進む状況にもかかわらず、このような高過ぎる目標成長率を設定してしまう理由は、間違った経済目標にあり、早急に「一人当たり実質GDP成長率」を目標に位置付ける必要がある。そして、以前のコラムで説明したとおり、増税判断の景気条項も「一人当たり実質GDP成長率」とするのが望ましい。

なお、中長期試算では、2014年度の実質GDP成長率を年率1.2%と見込んでいる。しかし、2014年度の4-6月の実質GDP成長率は前期比1.9%減、7-9月は0.4%減であるから、1.2%の成長を達成するには、10-12月の実質GDP成長率、15年1-3月の実質GDP成長率を各々○%とすると、「1.2%=○%×2-1.9%-0.4%」が成立する必要がある。これを解くと、○は前期比+1.75%となる。

2000年代の実質成長率は1.4%で、これを4半期ベースに直すと、前期比0.35%(=1.4%÷4)であるから、前期比1.75%の成長が不可能であることは明らかだ。また、14年度の残りの2四半期の実質GDP成長率が2000年代と同じ値、つまり前期比で平均0.35%であれば、14年度の実質GDP成長率は年率でどうなるか。

2014年度の実質GDP成長率は年率でマイナスとなり、1.6%減(=0.35%×2-1.9%-0.4%)となる。むしろ、2014年7-9月期の実質GDPの落ち込みは、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が「緊急連載・アベノミクス最後の博打」で指摘するように、増税前の駆け込み需要の剥落が原因と考える方が妥当なのである。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)