この前のこども版で「社会保険料は所得税より多い」と書いたら、「ほんと?」とか「給与明細を見てびっくりした」というコメントがあったので、実際にある30代の人の給与明細書をみてみました。

社会保険料の負担は消費税の5倍以上
赤で囲った部分が社会保険料で、40代以上は(空欄に)介護保険が入ります。彼の場合は健康保険と厚生年金と雇用保険を合わせて5万4037円。これに対して所得税と住民税の合計は2万1460円です。
実はこの本人負担と同じ額の事業主負担があります。これを「会社が半分負担してくれる」と思っている人が多いのですが、これは会社の経理では「人件費」なので、本来はみなさんのもらう給料から出ています。
つまりサラリーマンの負担する実質的な社会保険料は、源泉徴収票に出ている額の2倍の10万8074円です。これは税込み所得(37万6289円)の28.7%で、所得税と住民税の合計の約5倍です。
それに対して、消費税は消費の10%です。この場合は手取りが26万8215円なので、そのうち20万円が消費されるとすると、消費税額はその10%で2万円。みなさんが実質的に負担する社会保険料10.8万円は消費税の5倍以上なのです。
一般的には(介護保険料を含む)社会保険料は約30%なので、手取りは税込み所得の70%です。そのうち60%が消費されるとすると消費税の負担は税込み所得の6%ですから、社会保険料の負担は消費税の5倍です。
社会保険料率は、ほとんどのサラリーマンで同じです。所得税や消費税は「負担」という意識がありますが、「保険料」と書いてあると将来、返ってくると思うので、あまり負担感がありませんが、30代のみなさんの保険料は、半分も返ってきません。
それはみなさんの年金として積み立てられるのではなく、今の老人に払ってしまうからです。これを賦課方式といいます。30代のみなさんが年金をもらう30年後には、保険料を払う人がもらう人と同じぐらいになるので、もらえる年金も大幅に減るのです。
だから年金は破綻しているので、いずれ支給額を下げるか、支給開始年齢を上げるか、それとも積立方式(自分の積み立てた年金をもらう)にするしかありません。いずれも老人がいやがるので政治的にはむずかしいのですが、実はもっとむずかしいのは健康保険や介護保険です。
消費税を減税すると社会保険料の負担が重くなる
年金は破綻することが算術的にわかっているので、そのうち予算が足りなくなって厚生労働省の人もつじつまを合わせると思いますが、医療や介護のサービスはへらせません。本人負担をふやすのも限界があるので、こっちの保険料も激増するでしょう。保険のシステムそのものを変えないともちません。
こういう負担は特別会計になっていて、いま国会で審議している一般会計の予算には入っていないので、よい子のみなさんは知らないと思いますが、総額は195.1兆円で、一般会計の2倍です。そのうち国債償還費をのぞくと最大の支出が社会保障で、62.6兆円もあります。
それでも足りないので、社会保険料の穴埋めとして一般会計から社会保障関係費が出ています。これが2015年度予算では31.5兆円で、一般会計の32.7%をしめる最大の支出です。これは毎年1兆円以上ふえ、これからますますふえます。年金や健康保険が破綻すると、その穴埋めをする一般会計も「連鎖倒産」するのです。
社会保障関係費は、特別会計とはちがう裁量的経費なので、政府がへらすことができるのですが、一度もへったことはありません。小泉内閣のときは増加額を抑制して財政赤字(プライマリーバランス)が改善しましたが、それだけでも大変でした。その後の内閣では、増加額もふえつづけています。
ここに書いたことは、社会保障の関係者ならみんな知っているのですが、だれもいいません。まともに議論すると、年金会計だけで800兆円もある「隠れ借金」をどうするか、答がないからです。
消費税を減税すると、この社会保険料はさらに重くなります。それは国会の議決もいらないので、厚労省令だけで上げられるのです。それを負担するよい子のみなさんは「消費税の廃止」などという話にだまされてはいけません。
【追記】この記事はいつまでも読まれているので、消費税率を10%に変え、事業主負担についても書きました。2021年7月からのアゴラ経済塾「超高齢化時代の財政と社会保障」では、こういう問題をみなさんと考えます。