企業の所有と、経営と、収益分配に参与する権利と、この三つは区別されて考えられている。企業に投資するときは、普通は、経営は経営者に任せる。投資において問題となるのは、所有と収益分配の関係だけである。株式投資は所有を含む投資だが、融資、社債、劣後出資などは、所有を含まない収益分配の仕組みである。
企業への投資において、収益分配の仕組みを規定する契約構造をキャピタルストラクチャ(資本構成)という。不動産投資にもキャピタルストラクチャがある。
不動産を賃貸にだせば、賃料というキャッシュフローが生まれる。そのキャッシュフローが、不動産を投資対象として構成できる要件である。不動産投資は、この本源的なキャッシュフローを受け取る権利を取得することだが、理論的には、そのキャッシュフローの分配に、法律上の優先劣後の関係を導入できる。この優先劣後関係を定める仕組みが、キャピタルストラクチャである。
ここでの最重要な論点は、賃料収入が変動し得ることだ。賃料が減少してきたとしても、優先順位の高い投資家、例えば固定の金利を得るだけの債権者は、満額の利息を受け取れる。しかし、最下位のエクイティの投資家は、配当を受け取れなくなるかもしれない。逆に、賃料が増えても、債権者は金利以上の収益は得られないが、エクイティの投資家は、賃料の増加分を享受できる。
このように、優先順位の高い地位を得ている投資家は、収益が安定する一方で、長期的には収益が相対的に低く、優先順位の低い地位の投資家は、収益の変動が大きくなる一方で、長期的には収益が相対的に大きくなる、そうでなければ不公平だろうというのが、有名な「ハイ・リスク、ハイ・リターン」と呼ばれる理論的要請である。
不動産のエクイティの投資家というのは、不動産を所有している投資家で、不動産の債権者というのは、当該不動産を担保に融資している銀行などの債権者のことである。不動産投資というのは、多くの場合、不動産を担保とした融資を組み合わせる場合が多い。つまり、キャピタルストラクチャをもつ場合が多い。
不動産投資の目的が賃料収入を得ることだとすると、必ずしも融資を抱き合わせる必要はないが、普通は融資をつける。それは、エクイティの投資家にとって、期待収益が大きくなるからである。しかし、過大に負債を取り込むことは、危険である。賃料が少なくなり、金利支払いに支障がでれば、不動産の権利自体が、債権者に移転してしまう可能性があるからである。
不動産投資で損をするとしたら、多くの場合、原因は過剰負債である。要は、キャピタルストラクチャの設計が不適切だからである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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