任天堂の将来

岡本 裕明

岩田聡任天堂社長がお亡くなりになりました。55歳でした。42歳という若さにて同社の社長となりニンテンドーDS、Wiiといった大ヒットを飛ばし、同社名は一躍世界にとどろくようになりました。正にスーパーマリオのような方だったと思います。

ただ、ここ数年、一時の勢いもなく、会社の決算は悪化し、岩田社長の経営責任の声が高まっていたことも事実です。何度かあった節目に対して同氏は自分の力量にギブアップすることなく、会社に留まり、陣頭指揮を取り続けました。実際、先日の株主総会もほぼ一人で1時間を切り抜けたとされ、重病を抱えての陣頭指揮を全うしました。

インタビュー記事など折に触れて岩田氏の話題には目を通してきました。私のストレートな印象は任天堂の山内溥オーナーの絶対的信用をバックに同じカリスマ経営者だった山内氏のクローン的要素を持たせてもらっていたという気がします。つまり1949年から2002年まで同社社長を勤めた山内氏、それを引き継いで2015年までロングリリーフをした岩田氏と実に66年間をたった2人のカリスマ経営者で作り上げた組織であるのです。多分、私の知る限りそれだけ長期間を二人で作り上げた上場企業はまずないと思います。いや中小企業でもそうそうあるものではないでしょう。それぐらい稀な存在だったと思います。

近年、利益が伸びず、苦戦を強いられているときでも社長交代のうわさひとつ出なかったのは他にこの組織を引率できる人材がいなかったともいえるのでしょう。但し、一人だけ、注目しておかねばならないのが今回代表取締役の一人に昇格した宮本茂氏でしょう。同氏が実質的にはゲームを仕切っています。よってゲームの現場という意味では宮本氏の社内影響力は相当あったとみて良いと思います。ですが、私が想像する限り、彼は経営の人ではなくて現場で切った張ったをするタイプの様に感じます。事実、岩田社長は宮本氏に経営者というより現場の陣頭指揮をするように指示していたとされています。

私が今日、任天堂の話題に触れたいと思ったのは同社の後任選出、そして会社運営という大役を誰かがうまく引き継ぎ、さらなる拡大を継続できるのかが日本のオーナー経営者にとって大きく注目されるからだろうと考えるからです。

株式会社ニッポンにおいて日本型経営の特徴は会社の顔役を明白にせず、組織として継続性と安定感を打ち出すところに強みがあります。言い換えればサラリーマン社長が主流の世界であります。ところがやけに目立つ会社は逆にカリスマ経営者やオーナーが引っ張り上げる企業であったりします。ソフトバンク、ファーストリテイリング(ユニクロ)、日本電産、スズキ(自動車)、イトーヨーカドーなどなどがその代表格です。

それらの「目立つ企業」も過去何度となくその後継者の話が出てくる中で少しずつ動きが出てきています。孫正義氏は後継者候補を破格の金額で手繰り寄せました。日本電産の永守重信氏はシャープの元社長、片山幹雄氏を引き込みました。スズキは社長の親子間バトンタッチを行ったうえで新社長は同族経営が良いとは思っていないという趣旨の発言をし、同社が将来的に変化することを匂わせています。

トヨタのように創業者からサラリーマン社長が何人か続いたのち、再び創業家にバトンが戻るというケースもあります。DeNAの様に創業者が戻ってきて頑張っているところもあります。よってカリスマ経営者がいなくなったから会社がすぐにどうこうすることはないのですが、任天堂は66年間という特異な世界を作り上げていただけに特に注目に値するかと思います。

また、戦国時代のゲーム業界において各社次の一手を虎視眈々と研究している中で任天堂が次のリーダーシップを作り上げることが出来るのか、ここにも大きな注目が集まります。その点に於いて昨日の株式市場で任天堂と提携をしているDeNAの株が売られたのは新たなる経営戦略が打ち出される中で岩田ラインが継続されるのか、不透明感が出たともいえます。

マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が一線を退いた後、スティーブ・パルマー氏が14年ほど社長をしましたが正直、防戦だった気がします。今のCEOのサトヤ ・ナデラ氏になってようやくビル・ゲイツ色が消えたとされます。このケースを考えると任天堂が山内、岩田色を払しょくするには今日明日という時間軸では難しいかもしれません。業界そのものも激戦で荒波の中、そのかじ取りの行方は大いに注目されることになるでしょう。

岩田社長、お疲れ様でした。ゆっくりお休みください。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月14日付より