ドローン、規制より利活用を --- 中村 伊知哉

ドローンを規制する議員提出の法案が、あれよ。という間に成立しそうです。普段、議員立法は政府提出法案の後に回され、そう簡単に進まないものですが、さしたる対立もなく、やすやすと成立しそうです。
さらに政府は、ドローンの夜間飛行を禁止すること等を盛り込んだ航空法改正案を国会提出し、これも今国会で成立させるとも聞きます。

いいのかなぁ。

先日、総務省「近未来ICTサービス諸課題展望セッション」に参加しました。
日経新聞関口さん、東大森川教授、ATカーニー吉川さん、クアルコム山田さん、パナソニック秋山さんら旧知の委員多し。事務局は電気通信事業部データ通信課。ぼくは30年前の新人時代、その課にいました。

テーマは「ドローンの展望と課題」。総務省が “ドローンで撮影した映像などをインターネットで公開する際の指針をとりまとめる”との方針を示した、と報じられた会合です。

Bitly

ぼくは規制より利活用、規制より支援というスタンスです。「ルール作り」自体は賛成なのですが、それにしても今回はあまりに国会も政府もバタついているので、ちょっと待っておにいさん、慎重姿勢を促すため、以下のように発言しました。

ーーーーーーーーーーーーーー

7年前、子どもにケータイを持たせないようにしようという動きが広がり、各地で条例が整備されていった。子どものセキュリティ対策として、学校をネットにつながせない条例も広がった。

いま逆に総務省は子どもたちがタブレットとネットで学習できるように力を入れているが、以前のルールや考え方がネックになって苦しんでいる。

安全安心のために規制を導入するのはたやすい。そこから利活用を促進するのはとてもとても大変でコストがかかる。

資料配布された政府「小型無人機に関する当面の取組方針」をみると、官邸にドローンが1個落ちただけで国会も政府も規制するように書いてある。それぐらい、規制することは簡単だ。

民間でガイドライン作りをするというアプローチは支持するが、そこに官の規制が入ってくると、いざ利活用して、産業振興しようとしてもたいへん。

規制が1とすれば、利活用や振興に100ぐらい比重を置くバランスが大事だろう。

政府の取組方針には規制ばかりが並んでおり、利活用の取組は最後に少し触れているだけだ。このバランスを逆転する努力、メッセージが大事。アメリカは規制するけど軍用に多額の投資もしていることに注意すべき。

また、政府は「ドローン利用のガイドライン」を制定しようとしているが、安全・安心のためにという狙いや目的はどうあれ、国が国民の行動をしばる行為に映りかねない。その見え方には注意をして、慎重であるべき。

一方、総務省はドローンやロボット向けの使用可能周波数の拡大、最大電力の増力に向けて検討するという。こうした利用拡大の措置に期待する。

併せて、オリンピックというチャンスをどう活かすか、を考えたい。

オリパラ前年の2019年に街開きする竹芝CiPをドローン特区にしたい。オリパラでの使い道を広げる実証をしてみたい。

サッカーの会場に100個ぐらいドローンを飛ばして中継。どのカメラのどの視点で見るかは視聴者が自分で切り替えて選ぶ。マラソンも、2-3台の中継車じゃなくて、選手の数だけドローンで中継して、世界配信。応援したい選手をずっとみられる。

オリンピックの来る日本にとってドローン振興はチャンス。2020年に向けたICTの検討が総務省の別の場で進められている。そちらとの政策連動も図ってもらいたい。(以上)
 
ーーーーーーーーーーーーーー

重ねて言います。ぼくはルール化は賛成です。でもルールと言ったって、公園やイベント管理者の決めごともあれば、業界の自主規制もあれば、自治体の条例もあります。現に民間ガイドライン作成や条例化の動きもあります。

ところが、それら全部とっぱらってなぜ法規制、というのが疑問なのです。政府や党で場が作られて賛否の意見がたたかわされた、という痕跡もないし。

(なお、法規制とは別の「ドローン利用のガイドライン」はこの後、総務省が案を公表し、意見公募を経て制定されることになりました。この手続は慎重かつ妥当だと考えます。)

今回の規制法に至るスピードは、腰の重たい行政対応に普段やきもきしている身からすれば、実にすばらしいダッシュ力です。なのにその力は、なぜこの成長領域に対してやすやすと発揮されるのか。

知ってます。官庁のみなさんは、やみくもに規制したくなんかないんですよね。ホントは。危険性もバランスも分かっている。なのにそうした動きを見せざるを得ないのは、政治からのプレッシャー。昔ならはねのけられたプレッシャーも、政治主導とされる今は難しい。きっとそうですよね。

役所から出て脳天気な意見を飛ばす先輩には困ったものだ。という役所の視線も受け止めつつ、とはいえぼくら民間側が逆のプレッシャーを与えねば、バランスが崩れるので、しばし与えてまいります。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。