住宅ローンの文化の差

住宅ローンは、固定金利で借りるとき、金利変動に伴って、損得が生じる。金利が下がれば、損だし、上がれば、得である。しかし、市場全体における合意的期待のもとでは、損と得は同じである。

損と得が同じになるのは、理論である。しかし、より正確にいえば、等価でなければ市場原理はなりたたないという前提から要請される理論的仮説である。この仮説の有効性については、米国の住宅金融市場の例について検討してみるのが便利である。

もしも、固定金利の住宅ローンについて、手数料なしで随時に借換えできるとしたら、金利が低下すれば、低金利での借り換えが加速する。米国は、そういう市場だ。つまり、債務者にとっては、低金利で借換え可能という有利な権利、金融理論でいうオプションがあるわけである。

理論的には、全て有料だから、このオプションについても、債務者は対価を支払っているわけで、そのオプション料は、通常は、高めの金利という形態をとっているはずである。こうして、借換え可能な住宅ローンと借換え不可能なローンは、オプション料を媒介にして、等価性が実現しているのである。

また、原則として借換え不可能な住宅ローンでも、手数料を支払うことで借換えが可能になるとしたら、その手数料の理論値も、この等価性から逆算できることになる。

米国の住宅金融市場では、借換えできるオプションの価格は、理論値に近いところで形成されていると考えられている。理論値の計測には、高度に数学的な手法を用いなくてはならないのだが、米国では、最高度の数学の実務への応用が最も庶民生活に近い住宅金融市場で行われているのだ。甚だ興味あることである。

日本の住宅金融市場は、どうなっているのか。例えば、借換え手数料の実勢値は、理論値に近いところで決まっているのか。個人的な感覚として、日本では理論値との乖離が大きいような気がする。銀行の硬直的な手数料体系、過当な住宅ローン競争などが影響してはいないだろうか。

市場で理論が働くかどうかは、いいかえれば、市場が効率かどうかということなのだ。効率性は、取引の自由度(規制の少なさ、というよりも合理的規制環境)と、参加者の感性(合理性というよりも、生活慣習における金融的思考の定着度)に依存するのだろうから、米国と日本の住宅金融市場の構造の差は、興味深い考察対象かもしれない。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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