英国の格下げでも英国債が売られない理由

久保田 博幸

格付け会社のS&Pは6月27日に英国の最上位トリプルA格付けを2段階引き下げ、AAとした。見通しはネガティブ。国民投票で欧州連合(EU)離脱が決まったことを受け、一段と引き下げる可能性もあると警告した。S&Pによると、トリプルA格付けを一度に2段階引き下げたのは今回が初めてだそうである。S&Pは声明で「今回の結果は、将来的に大きな影響力を持つ重要な出来事で、英政策枠組みの予見可能性や安定性、効果が薄れる事態につながる」と分析したそうである(ロイター)。

ムーディーズ・インベスターズ・サービスは24日に見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げていたが、上から二番目のAa1の格付けは据え置いている。そして、フィッチ・レーティングスも27日に英国の発行体格付けを、上から2番目の「AAプラス」から「AA」に1段階引き下げた。

果たして今回のEU離脱を受けて英国の格付けを引き下げる必要があったのか。格付けは信用力ばかりでなく、国の体力ともいえる経済力などを含めて総合的に判断されるものであろうが、今回の格付けはやや腑に落ちない面もある。

2010年のギリシャ・ショックはギリシャの財政そのものへの懸念もあり、格下げがギリシャ国債の下落に油を注ぐことになった。しかし、今回の英国については今後の英国経済への懸念は強まれど、あくまで不透明感の強まりであり、英国の財政そのものへの信認がすぐに低下するようなものでもない。

この英国の格下げを受けて、英国債が大きく下落するようなことはなかった。むしろ買い進まれて30日に英国債は5年、10年、20年、30年物の利回りが過去最低を更新している。このように、これまでのところ先進国とされる国において、格付け会社の国債の格下げがあっても、それによる国債への影響は一時的もしくはほとんどないケースが多い。これは特に日本国債において顕著であった。

また、2011年8月6日にS&Pが米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げたあとの米国債の動向をみても、米債はリスク回避の動きとなって買い進まれていた。今回の英国債も同様の動きとなっていた。

このように米国や英国、さらにこれだけ巨額の債務を抱えた日本においても格下げによる国債市場への影響、この場合にはギリシャなどのように格下げで国債が急落するようなことは生じていない。

ただし、格付け会社の格下げはひとつの警告とも言えるものである。あくまで民間格付け会社の判断であり、それが適切であるかどうかはさておき、その国への懸念が生じていることを示すものといえる。それ以上にその国の信認が優っているため国債は下落しないという側面もあろう。ただし、この信認が永遠に続くものでもないことにも、特に日本では注意すべきものとなる。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年7月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。