いきなり出てきた感のある「18歳成人」だが、実は既定路線
昨日8月15日、金田勝年法相が、記者会見で、成人年齢を18歳に引き下げる民法改正案の提出時期について、「来年の通常国会に提出することも一つの選択肢と考えている」と述べ、準備を急ぐ意向を明らかにしたとして、各マスコミで「18歳成人」が一気に話題になったが、この間もこの問題を追ってきた我々からすると、むしろこれは既定路線である。
先日出版した新著『子ども白書2016 18歳「成人」社会〜「成人」とは何か〜』(本の泉社 http://honnoizumi.co.jp/single/698/ )で、立法府や政府の中での検討の過程について書いているので、詳しくは、こちらを見て欲しい。
この本の中でも、成年年齢の引き下げについては、「下がるのか下がらないのか」ではなく、既に「いつ下がるか」という段階にまだ来ていると言えるとした上で、自民党が『成年年齢に関する提言』を行った2015年9月時点で、法務省は2017年の通常国会にも民法改正法案を提出すると見通していることを紹介している。
「18歳選挙権」の際も国民の多く、またこれまでフォローしてこなかったマスコミは「いきなり上から出てきた」的な報道をしたが、今回の「18歳成人」にしても、既に昨年2015年の段階で2017年通常国会というのが、政府、自民党、法務省の共通見通しだった。
また、そのためにこの間、立法府においては党派を超えての国会での議論始め様々な検討があったこと、自民党内検討においては、多くの10代の意見をもをヒアリングしたことなどについても共有しておきたい。
「18歳成人」検討の推移
図表1: 国民投票年齢・選挙権年齢・成年年齢の法的位置付けの推移
(出典)筆者作成
2015年5月に公職選挙法が改正され「18歳選挙権」が実現され、つい先月、2016年7月の参議院選挙で初めて国政選挙で18歳からの投票が行われたことは、みなさんの記憶にも新しいことでしょう。
この法改正のそもそものキッカケになったのが、2007年5月に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律(以下、国民投票法)附則第3条第1項の「満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」との明記だった。
簡単に言えば、この国民投票法施行の2010年5月には、「18歳成人」にすることが、当時の国会議員たちの立法趣旨であった。
しかし、実際には、2014年の国民投票法の改正、2015年の公選法改正の中で、この問題は先延ばしにされてきた。
図表2: 各法と成人年齢引き下げとの関係
(出典)筆者作成
総務省と見解が分かれても法務省は引き下げたくなかった成年年齢
「18歳選挙権」に比べて「18歳成人」がここまで遅れた背景には、最後まで引き下げたくなかった法務省の抵抗がある。
それが分かる法務省の行動がいくつかある。
1つ目が、国民投票法成立直後の2008年の法務大臣による法制審議会への諮問だ。
総務省は当時から既に最高機関である国会が「18歳選挙権」の意思が示されているとして、その方向での検討を始めたのに対し、法文での明記の仕方は異なるものの、立法者意思として国会が「18歳成人」を求めていることが明らかであるにも関わらず、法務省は「成年年齢を引き下げるべきかどうか」も含め、当時の鳩山邦夫法相に諮問させたのだ。
この答申は、結局「引き下げは妥当」としながらも「時期については課題がある」とし、法務省は「事実上の先延ばし」に成功する。
2つ目は、選挙権と成年年齢の分離主張だ。
国会での立法趣旨を真摯に受け止め「公職選挙法上の選挙権、民法上の成年年齢については揃えて18歳にすべき」と主張した総務省に対し、その後も法務省は総務省と意見を分かちながらも「民法の成年年齢引き下げを行わなくても選挙権を18歳に引き下げることは可能だ」と主張し、成年年齢だけは逃げ切ろうとした。
ただ、私が代表を務める「18歳選挙権」を仕掛けたNPO法人 Rightsでは2001年の段階から選挙権は成年年齢と分離して引き下げを主張しており、実際には、この分離を各党に仕掛けたことが2015年段階での早期の選挙権年齢引き下げにつながったポイントでもあった。
実施に動かす分岐点となった自民党の「成年年齢に関する提言」
いわば棚ざらしになりつつあった「18歳成人」を動かしたのは、政権与党となった自民党「成年年齢に関する特命委員会」による「成年年齢に関する提言」だった。
この提言が、2015年9月に党政務調査会を通過し、総務大臣、安倍総理にまでこの提言が手渡された段階で、大方のスケジュールは既に決まっていた。
提言は5項目からなり、民法の成年年齢については、民法の成年概念を用いる法律を含め、できる限り速やかに20歳から18歳に引き下げる法制上の措置を講じるべきとし、法改正は早急に行うこととしたことが大きかった。ただ一方で、現状の消費者教育等の施策の充実強化を図るとともに、国民への周知が徹底されるよう、施行時期については、必要十分な周知期間が設けられるよう配慮するようにとされており、仮に通常国会で通ることとなっても法施行までには一定の周知期間が与えられる方向になる。
自民党の提言では、満20歳以上(未満)とされている要件は、基本的に満18歳以上(未満)に引き下げることとしているが、「税制に関する事項」や「養親になれる年齢」、「猟銃の所持、銃を使用する狩猟免許」、「暴力団員による加入強要の禁止対象年齢」、「国民年金の支払義務」、「船舶職員や小型船舶操縦者法による船長や機関長の年齢」、「児童福祉法に定める児童自立生活援助事業における対象年齢」、「特別児童扶養手当等の支給に関する法律の対象年齢」、「道路交通法上の中型免許や大型免許等」については例外としている。
また、社会的に関心の高い事項についてとして、20歳未満の飲酒・喫煙を禁止している未成年者飲酒禁止法や未成年者喫煙禁止法についてや、公営競技が禁止される年齢、さらに被選挙権を有する者の年齢を例示し、引き続き検討を行うものとしており、こうした問題がどこまで共に議論されてくるかがポイントとなってくる。
当事者である若者の声を聞くことと、被選挙権年齢引き下げがポイント
「成年年齢に関する提言」を行った「自由民主党政務調査会成年年齢に関する特命委員会」では、提言に先立って、当事者となる18歳前後の高校生・大学生約30名を募集し、2015年8月に自民党本部でヒアリングを実施した。
この事については、以前にもコラム『18歳成人、酒・タバコも解禁へ、自民、政策形成過程では若者30人を招く新たな若者参画の試みも』( http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52037961.html )でも紹介しているので合わせて読んでもらいたいが、当時、成年年齢の線引きでとくに議論されていた飲酒、喫煙、公営競技(競馬、競輪、競艇等)などについて、20歳以下の若者から年齢引き下げについて率直な意見をヒアリングしたいという依頼を受け、私たちが協力して実現したもので、こうした自民党内における公式な場に高校生などが呼ばれたのは初めての取り組みとなった。
こうした一連の取り組みを共に仕掛けてくれたのは牧原秀樹 衆議院議員だが、自民党からは今津寛 衆議院議員、平沢勝栄 衆議院議員、西田昌司 参議院議員、磯崎陽輔 参議院議員など十名以上が並び、法務省、警察庁、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、最高裁判所などの関係省庁幹部が出席する中、若者たちは積極的に発言をし、この様子は、NHKはじめ多くのメディアでも報じられた。
今後、議論がより具体的に進んでいく中では、こうした若者を当事者として巻き込んだ形での検討も同時に進めてもらいたいと思う。
また、この延長で、若者たちの声を各政党に届け、2016年参院選では、ほぼすべての主要政党が「被選挙権年齢引き下げ」を選挙公約に加えた。
若者の声をどれだけ反映させようとするか、若者の政治参加や意思決定過程への参画をどれだけ進められるかが、もう一つの大きなポイントである。
こうした話も含めて、2015年にJ-WAVEのJAM THE WORLDで話した動画があるので、興味のある方は合わせて聞いて欲しい。
高橋亮平(たかはし・りょうへい)
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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