欧州中央銀行(ECB)は8日、フランクフルトで定例理事会を開催した。政策金利にあたるリファイナンス金利は、引き続き市場予想通り0%で維持。上限金利の限界貸出金利も0.25%、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.4%で据え置いた。3月に決定した追加措置も、堅持した。
ドラギ総裁は、記者会見で「金利は資産買入プログラム(APP、3月に延長・拡大を決定)の期間を十分超える長きにわたって現在の水準あるいはそれ以下で推移し続けると予想する」と繰り返した。月額800億ユーロのAPPを2017年3月、必要ならそれ以降まで継続する」との見解も、あらためて表明。経済指標は「ユーロ経済の耐性を示す一方で、基本シナリオは下振れリスクに直面している」と述べ、必要なら「責務の範囲内であらゆる手段を講じる」とあらためて明言した。
量的緩和(QE)について「延長について協議しなかった」と述べたほか、同プログラムは効果的で実施に焦点を置くべきと説明した。もっとも「円滑な実施に向け選択肢を評価する委員会を設置した」と明かし、債券不足に対処する構えを打ち出した。
低推移が続く物価に対しては「インフレ見通し動向を非常に緊密に注視し、行動すべく備える」と発言した。理事会メンバーの間で「懸念材料」だったとも指摘。また「基本シナリオに従えば、インフレが(目標とする)2%に到達するには以前よりやや時間が掛かるだろう」とも述べ、委員会設置とともにAPP延長のサインを点灯したと言えよう。
そのほか構造改革の必要性を説くと同時に、欧州連合(EU)の規定に則った財政政策を通じた景気回復の必要性を求めた。明確にドイツに財政余地があるとも指摘することも忘れない。
マイナス金利導入で銀行が利鞘縮小に喘ぐ一方「マイナス金利の現状が銀行に因果関係と困難をもたらすと承知している」と語りつつ、低金利だけが業績不振の戦犯ではないとの考えを示した。
なお、ギリシャ中央銀行は同日にECBがギリシャ向け緊急流動性支援(ELA)上限を578億ユーロへ引き下げたと発表した。同国の銀行において流動性が改善し、民間セクターの資金流出に歯止めが掛かっためだという。
以上を踏まえ、成長見通しにおいて2016年を上方修正しつつ2017〜18年は引き下げた。HICP見通しは2017年のみ下方修正。コアHICP(エネルギー、食品除く)は2016年を引き下げたものの、2017年は上方修正した。
2016年見通し(9月時点)
GDP 1.7%
HICP 0.2%
コアHICP 0.9%
2016年見通し(6月時点)
GDP 1.6%
HICP 0.2%
コアHICP 1.0%
2017年見通し(9月時点)
GDP 1.6%
HICP 1.2%
コアHICP 1.3%
2017年見通し(6月時点)
GDP 1.7%
HICP 1.3%
コアHICP 1.2%
2018年見通し(9月時点)
GDP 1.6%
HICP 1.6%
コアHICP 1.5%
2018年見通し(6月時点)
GDP 1.7%
HICP 1.6%
コアHICP 1.5%
BNPパリバのルイジ・スペランザ欧州・CEEMAマーケット・エコノミクス共同ヘッドは、レポートにて「APPを再評価すべく委員会の設置を発表しており、期間延長を示唆したも同然」と分析した。時期としては「12月8日開催の理事会」を予想、早ければ10月20日の理事会でもあり得るとの考えを明らかにする。また今回のスタッフ経済見通しが微修正にとどまったため、次回分で下方修正を顕著にさせる可能性を指摘。ドラギ総裁があえて強い追加緩和のシグナルを送らなかった背景は「経済指標の悪化を待っているためではなく、買い入れ対象の債券が不足する事態を回避したかったのだろう」と説く。 その上で買い入れ条件のうち「①中銀預金金利を下限、②発行体の債務残高に対し買入の上限33%——の2点を変更し、②は50%ヘ引き上げる」と見込む。
――追加緩和を見送ったためユーロ高・株安で反応したマーケットですが、近い将来の実施では我慢できなかったのでしょうか。BREXITの影響が今のところ限定的では、ECBとして簡単に数少ない実弾を打ち放つことは避けたかったに違いありません。
(文中、カバー写真:European Central Bank/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年9月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。