読者の皆さんは、10月7日付弊ブログ#247「『50ドルの壁』ってなに?」を覚えていらっしゃるだろうか? NYMEXのWTI価格が50ドルを越えた時に「50ドルの壁」の意味を解説したものだ。
今しがた筆者の見方を裏付ける記事をFTのEd Brooksが書いているので紹介しておきたい(”Independent US oil producers increase hedge for 2017” around 20:00 on Nov 10, 2016 Tokyo time)。
・米独立系石油会社は最近起こった一時的な原油価格上昇の機会を捉え、2017年のヘッジポジションを積み上げた。
・過去3週間の間に発表された第3四半期の決算報告の中で、各社は昨年同時期より多くのヘッジを行ったと言っている。
・ヘッジを行うことにより、価格が弱含みで推移しても、キャッシュフローと投資を支えることができ、米国の石油生産を維持できる。
・昨年まったくヘッジをしておらず、今年行った主な会社は、Devon Energy、Cimarex Energy、Murphy Oilなど。
・昨年より多くのヘッジを行ったのは、Oasis Petroleum、Denbury Resourcesなど。
・9月のOPECによる(減産合意)発表により原油価格は一時的に上昇し、ブレント原油はピーク53ドル以上をつけた(弊ブログで書いた10月6日はWTI50.44ドル、ブレント52.21ドルで、高値は10月10日のWTI51.35ドル、ブレント53.14ドル)が、その後下落している。だが、この一時的上昇がチャンスを与えた。
・大まかに生産会社のヘッジ数量のガイドとみなせるProducers, Traders & Usersのショートポジションは、過去5年最高の6億800万バレルに膨らんでおり、これは最近の低水準であった2014年9月の時の2倍以上だ。
・エネルギー・エコノミストのPhilip Verlegerは「米石油会社は技術により利益を増やしており、ギャンブルはしない。それは製造業(manufacturing)ビジネスなのだ」という。
・両社とも昨年と同一水準だが、Pioneer Natural Resourcesは75%、Whiting Petroleumは49%ヘッジしている。
・ヘッジをすることの不利な点は、仮に価格が上昇した場合、得られるだろう追加利益のチャンスを諦めざるを得ないという点だ。
・より大きくて財務的に強靭な会社はまったくヘッジをしないところもある。たとえば、EOG Resources、Hess、Noble Energy、Continental Resourcesなどだ。
若干説明を加えると、Mr.Verlegerが「製造業(manufacturing)」だと言っているのは、BPのSpencer Daleが「石油の新経済学」で指摘しているように、シェール事業が在来型の石油開発と異なり、標準化が可能で、反復しうるものだ、ということが背景にある。
エクソンもシェブロンも米国内でシェール事業を行っているが、彼らスーパーメジャーになると、そもそもヘッジというものは念頭にない。事故に備えた保険ですら「社内保険」でまかなっているほどだ。それほど財務的に豊かなことは業界では「常識」なので、Edもあえて触れていないのだろう。
OPECは難しい立場に追い込まれた。
11月30日に削減合意ができないと、価格は間違いなく下落する。だが、シェール業者は生き延びられる。
合意すると、価格は上昇するが、シェール業者に「塩」を送ることになる。だから上昇しても、穏やかなものでしかないだろう。
「穏やかな上昇」でOPEC各国がまとまれるのだろうか?
事務局の手際に注目だな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年11月11日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。