保育園事業者あるあるをご紹介しましょう。
紙一枚が万里の長城に
社員「代表、足を棒にして、S区で中古物件を見つけました!駅近築20年で、保育園には必須の二方向避難口もありです。」
僕「おお、あの辺は保育園反対運動も起こって、待機児童問題で困ってる家庭がたくさんいるだろうから、喜ばれるだろうね。でかした!」
数日後。
社員「代表、あの物件ダメになりました・・・。すいません。」
僕「どうしたの?家賃高すぎた?都内は家賃が高くて保育園にはキツいからなぁ・・・」
社員「いや、そうじゃないんです。違反建築物じゃないことを証明する『検査済証(けんさずみしょう)』がないんです。」
僕「え、建てる時に取ってなかったってこと?」
社員「いや、取ったのがもう20年前のことで、オーナーさん曰く『どっかにあるけど、探すの大変。面倒くさいこと言うんだったら、他に貸す』と」
僕「えええ。そしたら、S区の建築課の人に来てもらって、ちょっと見てもらえれば、違反してないって分かるよね?あるいは建築士にチェックしてもらって、それを証明書として提出するとか」
社員「ダメなんです。建築課は『検査済証なかったら、ダメだから。以上』なんです。保育課はつくってほしがってるんですが、建築課は決まりに従ってそう言うだけでした。結果として検査済証不足で、保育課も認可はできないと」
僕「うがーーーー!!!そもそも、検査済証なんて、平成10年時点で38%しか取ってないんだから、築18年を超えたら、6割の物件は保育所として使えなくなっちゃうじゃん。ただでさえ希少な保育所物件を、さらに半減させてどうするってんだ!」
社員「そうなんですよ。一枚の紙が、万里の長城並みに保育所の参入を阻んでいる、と。嘘みたいな話ですよね・・・」
対応策
上記の寸劇は、実際にあったことをベースにしています。日本を悩ます待機児童問題の要因の一つが、物件の不足。そして物件を不足せしめている要因の一つが、検査済証提出義務です。
なんとどうでも良いことと思われるでしょうが、これが現実です。で、一体どうすれば良いか。
実は、この検査済証の有無の判断をするのは、認可保育所だったら東京都。小規模認可保育所だったら、市町村等の基礎自治体です。都だったり基礎自治体が「いや、なかったら他のチェック手段使おうよ」と決めれば良いだけなんです。
現に世田谷区長にこの前会ったら、「あまりにもおかしいから、世田谷区では小規模認可に関しては、検査済証がないケースでも対応することにした」と言っていました。
だったらできるじゃん!という話です。
ちなみに認可保育所の認可権者は、東京都です。小池知事が「検査済証しばり、やめよう」と言えば、速攻解決する話です。
でも、多分小池知事は知りません。保育課の中の人ですら、ほとんど知りません。なぜなら、通常行政は自分で物件を探してこないので、物件探しがむちゃくちゃ大変なことや、せっかく見つけた物件に検査済証がなくて涙を流すことはないためです。
というわけで、東京都議会議員さん、世田谷区以外の区議会議員さん、担当課の方々に教えてあげてください。たかが紙一枚のせいで、保育園開園が阻まれている、と。そしてそれによって、多くの親たちが泣く泣く仕事を諦めている、ということを。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2016年11月28日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。