日本経済新聞に、都内の印刷会社が訪日客向けに日本人との会話に役立つカードを作製・配布するという記事が出ていた。
かつて「トラベル英会話」「ポケット旅行会話」といった書籍が本屋に並んでいた時代があった。どれも旅行でよく使う会話文を日本語と外国語で記載したものだが、残念ながら、これらの本はほとんど役に立たない。病院を探して「Where is a hospital?」を指さしたとしよう。英語が話せず指差ししかできない人が、相手が英語で回答したとき、果たして理解できるだろうか。「目玉焼き」の隣に「fried egg」とあるから、レストランで指さしたら「目玉焼き」が食べられる、程度にしかこの本は役立たない。
会話は自分が言ったことが通じるだけでなく、相手の言うことが理解できて初めて成立する。「トラベル英会話」のような書籍も会話カードも、双方向のコミュニケーションができないので価値は低い。
すでに自動翻訳を利用したアプリが市中にある。NTTドコモは「はなして翻訳」という無料アプリで「2013年グローバルモバイル賞」を受賞している。企業向けプレミアム版の「はなして翻訳」も2016年夏から提供されている。これなら、双方向のコミュニケーションができる。パナソニックもメガホン型の自動翻訳機を作り、2015年12月、成田空港に試験配備した。日本語音声をサーバーに送り自動翻訳して多言語音声を戻す仕組みである。
訪日客に喜んでもらおうという印刷会社の努力も、企画倒れに終わる可能性が高い。それは、情報通信技術の進歩に目が向いていなかったからだ。あまりに気の毒だが、カードにはWiFiエリアやトイレの場所がわかる英語地図も付いているそうなので、訪日客がそれらの情報を利用するように期待する。