You Can Do Anythingという企業文化

170110

グローバル化とはいっても、各国ごとに、異なる歴史、法律、規制、慣習などがある。一つの国に深く参入するためには、徹底した現地化の考え方もあり得る。例えば、日本に参入するには、日本の責任者に、You Can Do Anythingといって、全てを任せるというように。同じ経営哲学でいけば、新規分野への参入も、責任者にYou Can Do Anythingといって、全面的に任せてしまうのだろう。

かつて、コンサルティング等のプロフェッショナル業は、パートナーシップが多く、パートナー対等という平らな組織構造になっていた。だから、当然に、You Can Do Anythingが原理原則だったのである。地域的には、各地域のパートナーから、地域責任者が選ばれて、また、各事業分野のパートナーから、事業責任者が選ばれ、それら責任者のなかから、最高経営パートナーが選ばれても、どの責任者も、いうなれば、強力な学級委員という程度のものだったわけだ。

当然のことながら、You Can Do Anythingを徹底すると、甚だ属人的となり、企業としての統一性は希薄になる。プロフェッショナル業の場合、職業としての統一性があるから、それで、よかったわけだが、程度の問題もあって、現代では、さすがに、同一屋号のもとのサービスの統一化は不可欠である。徹底したYou Can Do Anythingの企業文化は、古き良き時代のものである。

しかしながら、他方で、成長が新しい価値の創造である限り、企業の成長の原点は個人の次元にしかないことも事実である。成長の芽は、組織には宿らず、それは、常に個人のなかに生まれるからである。組織の機能は、その芽を育てることにすぎない。

成長する企業とは、第一に、個人の次元において、多様性と個人の自律を通じて、成長の芽を生む確率を高くするような環境のことであり、第二に、その芽を育てるための資源の供与の仕組み、即ち、組織のことである。要は、企業は、創発環境と育成組織の結合なのである。

古き時代のパートナーシップには、You Can Do Anythingの名のもとに、パートナーという個人の次元における多様性と自律があった。そして、平らな組織のなかで、パートナーは組織の基盤を自由に利用することができた。それが企業としての成長を支えた原理なのだ。パートナーという個人が主役の企業体だったのである。

しかし、時代は、多数のパートナーが歴史的に作り上げた多様な基盤を、企業の立場から整理再編して統一する方向に向かう。企業が主役となって、パートナーが単なる従業員化していくのである。そうなれば、新しいものを生み出すという意味での成長はなくなり、他社との統合による規模の拡大と、内部的な効率化による利益の成長しかなくなる。

こうして、You Can Do Anythingの企業文化は終わったのだが、さて、いまこそ、再興のときではないのか。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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