政治の風を左右する力量
トランプ氏が米大統領に就任し、既存メディアを飛び越えて、ネットなどで直接、国民に思いを投げつける情報作戦が効果をあげたようです。情報戦術の巧みさが既存メディアを上回るケースも増え、新聞、テレビはうかうかしていられなくなりました。日本のネット社会の潮流はどうなっているのでしょうか。
ネット世論を形成する場になっている言論プラットフォーム「アゴラ」編集長の新田哲史氏が、舞台裏を生々しい筆致で描き出しました。「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた? – 初の女性首相候補、ネット世論で分かれた明暗」(ワニブックス、新書)は同時進行形で、政治とネットメディア社会の相関関係を伝えています。蓮舫対小池という構図を通して、不気味な動きが政治を左右する時代になっている現状を見つめています。
ネットメディアの力量向上の一例として、筆者は「アゴラが真っ先に問題提起し、蓮舫氏の二重国籍問題を調査報道、本人に二重国籍を認めさせるところまで追い詰めた」と強調します。新興ネット媒体の力を軽視してかかった蓮舫氏に対し、「中心的な執筆者が次々に新事実をつきつけ、一般のネット市民からも多くの情報が寄せられた」。つまり言論の相乗効果をネットでは起こしやすいということでしょう。
蓮舫氏の二重国籍問題で成果
蓮舫氏は民主党政権では閣僚ポストに就任、現在は政権交代を目指す野党第一党の党首です。民間人と同じ基準で二重国籍問題を扱うわけにはいきません。結局、本人は昨年9月、台湾(中華民国)国籍の離脱(放棄)の手続きをとりました。「アゴラ」の追及が勝ったという結末です。新聞、テレビが「ネットが騒いでいる程度」と軽くみていたこともあり、蓮舫氏はかわせると思っていたのでしょうか。のらりくらりの作戦も息切れし、最後はギブアップです。
重大な二国間紛争が起きたら、どちらの側の国益を尊重するのか。これが二重国籍問題の根幹です。一般の民間人とは違い、国政の重要ポストにいる政治家に対しては、単なる国籍法違反と片づけるわけにはいきません。「蓮舫氏の度重なる虚偽の説明は、政権交代を目指す野党第一党の党首として適格性を欠く」というのが結論です。
それに対して、小池氏はどうだったか。「都議会を牛耳っていた“ドン”と言われる都議に反旗を翻し、失敗、遺書を残して自殺した都議がいた」といいます。さらに「その遺書の画像までがツイッターで公開され、反響を呼んだ」そうです。小池陣営は故人の妻を担ぎ出し、選挙カーの壇上、小池氏の隣に。その妻が「“ドン”が夫を死に追いやった。小池さんが都議会を改革すると聞いて天から主人が言っているように思った」と訴えかけた場面を本書では振り返ります。
成長の機会と淘汰の運命
「まるで江戸時代の仇討ちの演出。これがライバルの増田陣営と自民都連にとどめを刺した。ネットの特性を生かしたキャンペーンになった」。すさまじいですね。そんな実例を次々に紹介しながら、ネットは使い方次第で、政治の結末を左右する存在になっていることを強調しています。
もっともネットの力を自賛するばかりでなく、小池氏の政治手法について「不祥事を大きく伝え、対立の構図を作り出す手法はかつての小泉劇場を思い出させる。炎上マーケティングの手法は息切れする」と、自戒も込めています。ねつ造記事の排除、小人数で媒体を運営する苦しさなど多くの課題があり、成長の機会と淘汰される運命に対し、両にらみが必要ということでしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。