3月22日に財務省で開催された国債市場特別参加者会合(第70回)の議事要旨が23日に公開された。このなかで国債市場特別参加者制度の見直しについて財務省からの説明があった。今回、どのような変更となるのかを知るために、そもそも国債市場特別参加者とはいかなるものであるのかを確認しておきたい。
戦後、国債発行が開始されてから国債の安定消化に大きな役割を果たしていたのが国債引受シンジケート団である。しかし、シ団制度は多くの国で行われていないことに加え10年利付国債しかカバーしていなかった。国債の発行年限の多様化などにより、シ団制度そのものの形骸化が指摘されるようになり、1998年末の資金運用部ショックと呼ばれた国債の需給悪化を背景にした債券急落をきっかけに、新たに設けられたのが国債市場懇談会である。この国債市場懇談会はあくまで財務省理財局長の勉強会との位置付けであった。これを発展させ、欧米で広く採用されているプライマリー・ディーラー制度(政府公認の国債取引業者)の仕組みを取り入れて、省令に基づく正式な制度としたのが、2004年10月から導入された国債市場特別参加者制度である。日本版プライマリー・ディーラー制度であり、その会合は国債市場特別参加者会合が正式名称であるが、PD懇(プライマリー・ディーラー懇談会)とも称されている。
プライマリー・ディーラーのプライマリーとは新規に発行されることを示す。つまりプライマリー市場が発行市場を意味し、これに対して既に発行されたものを売買するのがセカンダリー市場と呼ばれる。つまりセカンダリー市場とは債券の流通市場となる。またディーラーとは、財務省が発行する国債を自己の資金で売買することができる証券会社や銀行などを指す。
プライマリー・ディーラー制度とは、指定を受けた証券会社や銀行に対し、一定の規模の国債の入札や落札、市場の状況等の報告が義務付けられる代わりに、一定の優遇措置が認められる制度である。
国債市場特別参加者制度運営基本要領によると、国債の安定的な消化の促進並びに国債市場の流動性、効率性、競争性、透明性及び安定性の維持並びに向上等を図ることが国債市場特別参加者制度の主な目的となっている。
国債市場特別参加者、つまりプライマリー・ディーラーとなった参加者に対しては責任が求められる半面、資格も得られる。
責任としては、すべての国債の入札で、相応な価格で発行予定額の4%以上に相応する額を応札しなければならない。落札額も超長期国債・長期国債・中期国債についてそれぞれ1%以上、短期国債は0.5%以上の落札責任がある。また、国債流通市場に十分な流動性を提供することも求められている。毎週、自らのアウトライト取引(日計り売買)、債券先物取引、店頭オプション取引及び円金利スワップ取引等の取引の動向等について情報の提供が求められる。
資格については、おおよそ四半期に一度開催される国債市場特別参加者会合に参加することができる。ここで各年度の国債発行計画、各四半期の国債発行のあり方、国債に対する需要動向、国債の商品性のあり方、国債流通市場の動向等、財務省と意見交換等を行うことができる。
国債市場特別参加者は第1非価格競争入札と第2非価格競争入札に独占的に参加できることになった。第1非価格競争入札により、価格競争入札における加重平均価格で財務省が特別参加者ごとに設定する応札限度額まで応札できる。この際の発行分の限度額は、当該国債の発行予定額の10%となっている。
今回、修正されるのは「相応な価格で発行予定額の4%以上に相応する額を応札しなければならない」との応札義務の箇所で、4%を5%とする。国債市場特別参加者は、手元に残るデータでみると2012年あたりで25社あった。ところが合併などに加え、昨年の三菱東京UFJ銀行の資格返上もあって、現在21社となっている。このため21社が4%の義務だけ応札してしまうと84%となり、未達が発生する懸念が出てしまう。
米国のプライマリー・ディーラー制度では、発行予定額をプライマリー・ディーラーの社数で除した値を応札義務と定め、プライマリー・ディーラーの応札のみで発行予定額の全額をカバーする仕組みとなっている(議事要旨の財務省の説明文より)。それならば今後も国債市場特別参加者が増減する可能性もあり、米国のプライマリー・ディーラー制度の方式を取り入れても良いと思われるが、とりあえず5%として特別参加者21社の応札責任で全額をカバーできる格好とするようである。
また、第1非価格競争入札の発行限度額についても10%から20%に引き上げる。入札そのものでは平均落札価格を上回る価格で落札すると販売時に損失が出る可能性がある。それに対して、第1非価格競争入札では平均落札価格で購入できるためリスクが少なくなるという利点があり、その活用枠を拡げることになる。
これらの変更は今年7月以降に「発行」される国債の入札分から適用する予定だとか。このため、例えば6月に行われる2年債の入札では現状、発行日が翌月の7月となるため新制度が適用されることになる。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年3月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。