日本は世界の「ニンジン王」!?

山田 肇

世界の種苗業界でトップにいるのは米国のモンサントである。同社は遺伝子組み換え植物の開発に強く、特に穀物類では他を寄せ付けない。一方で、タキイ種苗の公開情報によると、野菜種子の世界市場4000億円について日本は17%を占め、国土面積が小さいにも関わらず世界市場において有数の規模だという。

Wall Street Journalは4月7日付で、みかど協和がニンジン種子で世界市場の約3割を握り、「ニンジン王」になる可能性がある、との記事とビデオを掲載した。ビデオによれば、サカタのタネもブロッコリ種子で世界市場の6割(※訂正)を握っているそうだ。タキイ種苗の情報の通り、日本の種苗メーカーは野菜種子で健闘しているのだ。

安倍政権は農政改革に取り組んでいるが、農地の集積、農業者所得の向上、農業規制の見直しといった事柄ばかりが話題になる。自由民主党の小泉進次郎農林部会長が全国農業協同組合連合会に圧力をかけているという報道が時々あるのが、その象徴である。農業従事者の高齢化や耕作放棄がこれらの話題の背景にある。

野菜種子のように日本が得意とする分野をさらに強められないか、という議論はなぜ起きないのだろうか。International Seed Foundationが種子の輸出入を国ごとにまとめている。それによれば、2014年にわが国の野菜種子の輸入は121百万ドル、輸出は94百万ドルと収支均衡まであと一歩に来ている。農林水産省の統計によれば農産物の輸出入は、2016年に、輸入が5兆8273億円に対して輸出は4593億円と圧倒的に輸入超過だから、野菜種子は特別である。

安倍内閣の『日本再興戦略2016』を読み直したが、農業関係の輸出力強化は「世界の食市場を、我が国農林水産物・食品の販路に取り込む。」という記述にとどまっている。日本国内では気づいている人が少ないのに、Wall Street Journalが「ニンジン王」を記事にしたのは、もったいない限りだ。もちろん、農産物全体に比べれば野菜種子で稼いでも焼け石に水ではあるが、丹念に調べればほかにも日本の強い分野が見つかるだろう。