今週のメルマガ前半部の紹介です。50名におよぶ内定者を抱えたまま経営破たんした“てるみくらぶ”が問題となっています。そりゃそうですね。人生で一度しか使えない新卒カードをきって乗り込んだら、卒業までひと月切ったところで轟沈してしまったわけですから。
それさえあればあらゆる業種が無条件で採用の門戸を開けてくれる新卒カード。上手くやれば“終身雇用”という人生丸抱えレールの始発に乗ることさえできます。逆にそれを失ってしまえばどうなるかは、2000年前後の就職氷河期世代のオッチャン達が身をもって証明してくれています。要するに日本における新卒というのは、その人がそれからどういう人生を送るかが決まってしまうとても重要なタイミングなわけです。
【参考リンク】「中年フリーター」のあまりにも残酷な現実 就職氷河期世代が今、割を食わされている
ところが、なんと200社を超える企業から「ぜひうちで採りたい!」というオファーが殺到しているとのこと。4月1日は無理でも、たぶん4月中にはめでたく全員はけていることでしょう。
【参考リンク】てるみくらぶ内定者58人、200社が「争奪戦」
さて、賢明な読者の中には、きっとこんな疑問を持った人もいるはず。
「氷河期世代と今の内定者って、なんでこんなに扱いが違うの?」
アベノミクスのおかげだ!という人もいるでしょうけど、もうちょっと深い構造的な事情もあります。なぜ今の学生は会社がとんでもさくっと救済されるのか。そして、そもそも就職氷河期世代とは何だったのか。今回は雇用と世代についてまとめておきましょう。
氷河期世代とはなんだったのか
日本は基本的に一度正社員になってしまった人の解雇は出来ないルールなので、雇用調整は新卒採用数の増減で行います。たとえば1991年というのは新卒採用のピークで、どこの大企業も500人以上(!)も採用しまくっていましたが、バブル崩壊がはっきりした92、93年あたりでは少なくない数の企業で新卒採用そのものが見送られました。大型クルーザーや温泉旅館を借り上げてコンパニオン付きの宴会までさせて内定者の囲い込みしてたのが、いきなり採用ゼロになるわけです。まさに天国と地獄ですね。
余談ですけど、いまでも大企業の現場では50歳くらいでぜんぜん聞いたことのない大学出身のオジサンが生息していますが、あれはまさに500人以上バカスカ採ってた時代にザル入社できた幸運児の現在の姿です。「石の上にも30年」と言われるほど定着率の良い世代でもあります。
「こんなに採ってこれからどうするんだ!」
「能力的にも微妙だし、年功序列で出世なんてさせられないぞ」
という具合に、実は彼らのボリューム感こそが、その後の日本企業の人事制度見直しのきっかけとなってたりします。
バブル崩壊後、途中にITバブルの盛り上がりはあったものの、小泉政権が不良債権処理を断行する2005年あたりまで、日本経済は長い長い停滞期にありました。終身雇用という特性上、その波は新卒採用数の抑制という形で押し寄せたわけです。
一方、もう一つの波もあります。それは人口です。いわゆる団塊ジュニアと呼ばれる世代が、運悪く、停滞期にモロに被る形で、90年代後半から世に出始めます。新成人数でいうと94年で207万人というボリュームです。関関同立、MARCH以上なのに50社以上受けても内定が取れない、なんて学生のインタビューがメディアにぞろぞろ出てきたのはこの頃ですね。
まとめると、90年代半ば~00年代前半に世に出た世代は、新卒採用数の波と人口の波、この2つに挟まれた結果、元祖・就職氷河期世代と呼ばれるようになったわけです。
フォローすると、時代も良くなかったですね。今でこそ「卒業後2年は既卒扱いをやめる」というような大企業もチラホラ出ていますが、当時はそんな風潮は皆無でした。現在のサービス業などでは正規と非正規の垣根はだいぶ薄れていますが、当時は厳然とした線引きが存在していました。
与野党の政策も迷走気味で、「派遣労働は上限3年」として、結果的に派遣労働者を3年ごとにぐるぐる漂流させて付加価値の高いキャリアを積む機会を喪失させてしまいました。2013年からは有期雇用全体に上限5年のルールが適用され、これらの悪法が正社員と非正規雇用労働者の賃金格差を拡大、固定化させる大きな要因となっています。
先述の東洋経済の記事にあるような「中年フリーターの残酷な現実」のかなりの部分は、こうした政策の迷走による“人災”だというのが筆者の見方です。
さて、一方の“てるみ内定者”はどうでしょうか。まず求人数の波ですが、実はアベノミクス云々は関係なく団塊世代が完全引退し始めた2014年あたりから急激に回復しています(言い換えればやはり団塊世代を養うためにそれまでの求人は抑制されていたわけです)。
そして人口の波ですが、こちらも90年代半ばをピークに一貫して減少し続け、2010年以降はなんと年120万人台、ピーク時の6割にとどまっています。氷河期世代とは逆に、2つの波は“てるみ内定者”を強力にアシストしてくれたわけです。
以降、
世代によるブレを少なくする処方箋
氷河期世代は、これから移民の議論を進めていくうえで忘れてはいけない教訓である
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2017年4月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。